Featuring

毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
10


スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ねためもめもっこり



「マスター、寝ろ」
「はっ……」
 朝、起床して身支度を整えていたら、シキガミが目の前に仁王立ちして現れた。彼の水色の髪の毛は朝日に当たって透けていて、部屋にはしめった藺草のにおいが下の方に溜まっていた。まだ換気をしていない。
 このシキガミが前後不覚なことを言い出すのは今に始まったことではなかったけれど、五十嵐ルウもこのときばかりは脳みその停止もやむを得なかった。まじめくさったシキガミの顔をまじまじとみて、その青い瞳も、朝日の中で見ると、ちょっと心配になるくらい透けていた。目の奥を日焼けしそうだなと思った。
「床は俺が準備してやる。だからとりあえず服を脱げ、早急に」
「はァー!? 今着替えたばっかり! 何言ってんの、朝から。おフダあげようか、頭に効くの」
「君こそ朝からなんて大声出すんだ、勘弁しろ。いいから言うこと聞け」
「お前、ぼくのが主だって分かってる?」
 わかってる、わかってる、とレギナは首を振り(分かっていないようにしか見えない)、「本当ににぶいやつだな」と苦々しげに呟いた。あまり見たことのないたぐいの表情だったので、ルウは思いがけず緊張を覚えた。レギナは不作法者で半端者だが、本質は永く生きる神霊なのである。ルウは時々、この少年の言動や行動に、永久の年上なのだということを思い知ることが間々あった。ので、レギナが真面目に物事を言うのは少し恐れがある。
 ルウが唇をとがらせたまま押し黙ってしまうと、シキガミは大きなため息をついて、腰をかがめた。視線を主のそれと合わせるためである。海色の瞳を、ルウの黒い瞳とがっちり視線を合わせて、レギナは白い指先をぬっと出した。そしてルウのひろい額に置いた。それは人間の指の感触だったが、とても冷たかったので、ルウはそちらにおどろいた。
「君、熱があるぞ」
 ルウは最初、その一言を信じられなくて――あまりにレギナの体温が低いから――「温度計」の基準が間違っているんじゃないのか、と文句を言ったら、「君、おれの主だって分かっているのか」と呆れ返られた。
「シキガミが主の身体のことを分からなくてどうするんだ」
 その一言が、疑う気を起こさせないくらいに、神託のように確信的だったので、ルウは「そうかなあ」と妥協せざるをえなくなった。
「無理をするから。あんな寒いところで寝て。晴次は心配しかできないのだから、アイツの事も考えろ」
「うう……。れ、レギナが隣で平気な顔しているから……」
「シキガミが体調不良になるなんて、君、電波の立たないケータイよりあり得ない」
「?」
「違う、なんでもない。これから上がる熱だ、きっと。寝間着に着替えて、水を飲んで、寝ろ」
 その後のレギナの対応は不気味なほど手際が良かった。昔、女中がしてくれたのとほとんど同じ手ほどきで、風邪のぼくに対応したが、その女の仕事をレギナが会得しているのが不気味だった。「やったことあるの?」と聞くと、「まあな」と曖昧な答えが返ってきた。永く生きていると、きっとどこかで、レギナは風邪の人間を介抱する術だって見知ったのだろう。どこぞのだれかも、レギナにこうして、布団をかけてもらい、水差しを用意してもらい、くどくどと枕元の小言を聞いたのだ。ぼくはその「どこぞのだれか」のことを、問いつめたくってたまらなくなった。しかし、その激情は一瞬だけ炎のように燃えて、すぐ萎えた。こういうのを自重と言う。
 その後浅い眠りに一度就いて、数刻の後に目覚めてみると、自分の身体と疑わしいほどにけだるく、脳みそと耳の穴と鼻の穴が熱かった。ああ、きた、という思考が、その熱の中でかげろうのように揺れた。
 居るかな、と思って、レギナ、と呟くと、空中から「ああ」と聞こえた。
「レギナ、おでこ触って」
「はあ?」
「お前の手冷たいんだもん」
 レギナはぼくの視界には現れない。横になっているぼくの頭のずっと向こうのほうから声が聞こえる。
「断る、肩凝るから」
「ずっとだなんて言ってないよ……」
 冷たいのもあるが、レギナの手には不思議な作用があると思う。人間の感触を持っているが、皮膚いちまいを隔てて、彼が術力のかたまりであることが伝わるのだ。それはゼリイのような質量で、芳醇な生命力がたっぷり含まれているかんじがする。そこに触れると、海にぷかぷかと浮いているような、きゅうくつな輪郭が溶けていくような気になる。そう、海だ。こいつの印象はすべて、海へ通じているなあ。
 ぼやぼやととりとめない思考をしているうちに、ゆっくり眠気に呑まれていく。
 眠りの入り口をくぐって数歩を行ったくらいに、ぼくは、おでこにひんやりとしたものを感じ、それから海でぷかぷか浮いている、長く穏やかな夢を見た。



 その翌日には体調は快方に向かい、翌々日には完全に治った。治るのが早い、野生を感じる、と、シキガミは失礼な感想を言って呆れていた。風邪を引いたときだってああだこうだ言っていたので、レギナの小言は呼吸のごとき生態であるとぼくは認識している。
「レギナ、レギナ! あそこの本取って、届かないんだ」
 蔵での読書を再開した。レギナは僕が指さした、本棚の上段の方を一瞥すると、何故かひどくむくれた様子で、「断る」と言った。
「肩が凝っているからいやだ」
 



 

シキガミだから肩なんて凝らないけどね たぶん
創作「ハルシオン・ブルー」より

 


Comments

Leave a Comment


Body

プロフィール

林

Author:林
いらっしゃいませ
こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
主にネタメモ、突然ネタメモ

オタクなこととかやおいなこととかきもちわるいこととか普通に言います
やな人は帰ってください

●文芸部特別企画
第一弾
流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
夢十夜

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
手書きブログ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。