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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝二十二




(――ぼくらの出会いを、)




ハルシオン・ブルー外伝 22


開いた、と思ったらもうだめだった。腹の底から嗚咽のような雄叫びのようなのが湧いた。白虎が代わりに吠えて、崩れた術力の波濤をくぐるように突進を開始した。



 ルウは、織里の白虎に乗って、上空から京都に飛来していた。もちろん、ユウヒと亘も一緒である。
 京都に戦いに行く、と四人で決めてから、官軍との采配のやりとりもそこそこに、ルウ達は京都へすっ飛んでいった。戦いに行くのはいいが、八代の結界という大きな障壁がある。ルウには大結界を壊した経験があるが、外部から崩壊させるには、それこそ、神霊一体消費するほど、術力が要る。それは無理だった、内側から結界が壊されるのを待つしかない。
 ――が、当主四人はそのとき、完全に「キレて」いた。様々な駆け引きや、まったく晴れない真相への暗雲、そして、ほんの少しも分からない仲間達の安否。これらを総括して、さらに、五十嵐ルウという稀代の見切り発車少女が、その狂気を伝染させて、笑顔の織里はもちろん、今まで論理武装して平静を保っていたユウヒや、しょげかえっていた亘まで、ここで「待つ」という選択をしうるテンションに無かった。
 当主四人がすっからかんになるまで、結界を攻撃すれば、あるいは、神霊一体ぶんの代価に充当するのではないか。結界が開いたあとの余力など、野となれ山となれ、ルウが「開けコラー!」という怒声とともにまず第一撃。その後、第二撃をお見舞いしようとしたとき、織里がルウを制した。
「待って! なっちゃんの術の気配がする」
 ――一刹那、結界の内側で、信じがたい術力がふくらんだ。そう、ちょうど、神霊一体分あるのではないか、というほどの、すさまじい圧力。その爆発で、久住院を覆っていた結界は、あっけなく、ぱん、と内側から破けたのである。


――開いた、と思ったらもうだめだった。腹の底から嗚咽のような雄叫びのようなのが湧いた。白虎が代わりに吠えて、崩れた術力の波濤をくぐるように突進を開始した。
経験があるからこんなにたぎるのだ。五十嵐ルウは呼吸も止めて、崩れる結界の雨を浴びていた。あの日の光景に酷似していた。ただ今日はその向こうの水平線でなくて、仲間達の家を臨んでいた。
凄まじい海流の中全員が目をめいっぱい瞠っている、どんなだれも見過ごす気はなかった。
あの長い砂利道が一本の藁のように眼下に見える。その先に山に抱かれるような本堂。織里が白虎に降下を命じる。この白虎で降下って……と、ルウがデジャブを感じる間に、虎は降下というか、特攻を開始した。亘が死にそうな悲鳴を一度上げて静かになった。
ルウの耳の空圧がぷちん、と切り替わったのと同時に虎は地面に突き刺さる。
鞭打ちになりかけた首をさすりながら、亘を現世に殴って戻し、織里とユウヒに目配せして、ルウは頷いた。よし、行こう。
――「ふふ、」と穏やかな笑い声が小さく聞こえたのはその時。微かだったが、砂塵を染み渡る湿気のように四人の耳に伝播した。

「むちゃくちゃなんだから。誰かけがしてない?」

本堂の手前の、大門の礎石の所に、白髪の青年が腰掛けていた。紫苑色の着流し、長身痩躯の猫背ぎみで、ゆっくりと煙管を吸っていた。丁寧に煙をはき出してから、もう一度微笑む。
 四家鷹久だった。
全員の空気が、ぴん、と張りつめたなか、させないわよ、とまず口をきいたのは織里だった。
「操舵は私だもの」
 鷹久は、肩をすくめて、
「それにしても生傷だらけだ。……ああ、ハルに会ったんだねぇ」
ぴくり、と亘の肩が震えた。しかしその後は迷わなかった。今まで戸惑っていた少年の視線が、ぴたり、と鷹久に向いた。
「びっくりだった?」
「鷹久兄さん、話してくれる気はないんですか」
「ゴメンよ。ついでにここ、通すなとも言われてんの」
 また紫煙を吐き、煙管の灰と火種を地面に振り落として、四家当主は初めて腰を上げ、正面から四人に向いた。もう一度「ゴメンよ」、と本当に困ったように口の端を少しだけ持ち上げて、鷹久は煙管をそのまま投げ捨てて――それが地面につく前に、四人の目の前に現れた。
 全員の息が止まる。神父の、、、、とルウ達が反射的に退く――その一瞬前に、
 既に白虎の巨大なあぎとが鷹久を捉えている。
 織里が「西瓜っ」と叫び、その白い牙が鷹久の脳天にかかる、と、同時に、四家鷹久は、歯を見せてにやり、と嗤った、、、――次の瞬間、白虎が顎をがくんと引いた、、、。織里が目を瞠る。四家鷹久はその巨大な白虎ののど元のあたりで静かにたたずんでいる。その手のひらは、ゆっくりと、虎の柔らかな体毛を撫でている。
 何で、と四人が口走る前に、鷹久が笑った。
「……オッサンの術はね、本質的には、相手にオレの術力を混ぜることにあるんだよ」
 この子は織里ちゃんの術力のカタマリだもの、と四家当主は静かに目を伏せ、白虎の口元を優しくなぞっていた。白虎は全く逆らわない。いや、語弊がある。白虎は今や、四家鷹久に従っている。
 書き換えられたのだ、、、、、、、、、。六東織里が、瞠目を眇めた。今まで治癒術にしか、その能力を使用してこなかった四家の、匿されていた真髄を見せられたのである。
「みんな先行ってて。私、西瓜、返して貰ってからいくわ」
 六東織里が、涼しい顔で鷹久と、それに従う虎を見つめながら、きっぱり言い切った。亘が、うう、とも、ああ、ともつかない、情けない声を出しかけたが、それを上書きしてユウヒとルウが、合点、と声を上げ、迷いなく鷹久へ突進を開始。
 走る二人の前に突き出された亘は、ええっ、ちょっと、虎が、虎がこっち見てるんだけど、と喚くが無視される。
 「ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと待ってええ」と亘が半泣きで叫び、鷹久と白虎に衝突しかけ――た、ところで、亘を含めた三人の姿が、パッと消滅。そして、大鳥居のすぐ向こう側で、人数分の「ぐぇっ」と着地の騒音。
「通すなって、言われたんじゃないの」
「そうだけどさぁ~、回復要員のオッサンがよ? 当主四人は無理でしょう。織里ちゃんだけで、精一杯よ」
「鷹久兄さんったら、ひとの虎とっといてよく言うわ。その子お気に入りなの。返してくれないかしら」
「そしたら、オレ、ボコボコにされちゃうんでしょ?」
「させないわよ。私がするの」
「なにそれ。怖いわー」
 だって、と六東当主は、栗色の豊かな長髪を揺らして、口の端を上げた。他人の瞳をまっすぐ見つめる、潔い笑みだ。鷹久は少しまぶしそうに目を眇めた。織里が懐から大量の術符を取り出して、一つずつ丁寧に舐めてから空中に放る。白い半紙は中空で、それぞれ、六東当主が従わせる猛獣に変化する。その巨大さたるや、それぞれが巨岩のようである。あらら、と舌を巻く鷹久に、六東当主は初めて微笑みを顔から取り去って、静かに、その目を細めた。
「最後に教えて。だれに命令されているの」
 四家鷹久の方は笑みを消さなかった。肩をすくめて、「オレは九重にしか従わないよ」と言う。
「でも君たちはルウちゃんに導かれた。ねぇ、君たちはさ、うまく踊れよ」
 
 ――神父に見つからないように。















「織里姉さん、鷹久兄さん、大丈夫かな……」
「大丈夫なわけあるかい、喧嘩やで。どっちかボッコボコになるに決まってるやん」
「ぼく、鷹久兄さんがボコボコにされるに一票」
 珍しく意見合うやんか、とユウヒが鼻を鳴らした。三人は久住院の本堂に向かっている。ようやく入れた京都の久住院。やるべきこと、そして伝えるべきことは山のようにある。五十嵐ルウは双眸を強く、常に遠くを睨むように寄せていた。
 それにしても、一ノ瀬春木といい、四家鷹久といい、彼らの動きに必ず影を見せる、神父の気配はどういうことなのだろう。奴自体の気配は、この久住院に戻ってきてもまるでしない。だが、絶対にまだ終わっていない――鷹久は、刃音が神父を消したと言っていたが、ルウには引っかかるものが残っていた。
 神父は誰かに召喚された神霊ではない。なにか、得体の知れない目的の為にこの国に来ている。そして、我々はもしかしたら、彼の思い通りに二派に分かれ、つぶし合いを演じているのかもしれない。
 ――だったら。だったら、六年前は間に合わなかったが、今度こそ、走っていって怒鳴りこむのだ。神父がいるなら、もう一度ぶん殴るのだ。もう、間に合わないというのはゴメンだ。ルウはもう一度、自分の双眸をギュッと寄せて、これからしばらく、目に映るもの全て睨み付ける眼光を決意した。
 本堂に着いた。空から特攻した以外は、正面から突き進んでいるのに、四家鷹久以外の障害がない。本堂は気味が悪いくらい静かで、巨大な黒い影が息をひそめていた。ほんの一日ほどまえ、神父と戦った本堂の手前の砂利敷きの庭も、そのようなことを都合良く忘却したかのように、整然と白光りしている。誰もいない。
「ワタ坊、気ぃ張っちょれよ」
「え!? せ、先生、何か気配を感じたの?」
「イザという時はお前で避難するやん」
「自分で逃げてよっ!」
 冗談に決まってるやんか、とユウヒがニヤリとし、亘の背中を思い切りひっぱたいた。「でも、頼りにしとるで」。
 ルウはそのやりとりを見ながら、とがらせていた目線がややゆるみ、口の端が持ち上がるのを感じた。
 だが、その次の瞬間に、背中をゾッと割くような悪寒が降ってきた。他の二人も同じだ。全員、ほぼ同時に本堂の屋根の上を見上げた。
 さらに耳元で、ばりっと空気が裂ける音。視界の先端に白刃の弾丸、亘が「危ないっ」と叫んで、ユウヒとルウを後ろへひっぱった。三人が尻餅をつくと同時に、空から降ってきた銀色の刀が地面をたたき割っている。その柄を握り、泰然と佇立しているのは――空色のサムライであった。
 もう誰からも絶望のため息は漏れなかった。「ルウ!!」とユウヒが叫び、
「先行け!」
 その間にも、サムライが刀を抜いて間合いを詰めた。ユウヒが咄嗟に顎を引いて避けるが、先端が確実に首を捉えている。「くぅっ」と呻いたと思うと、ユウヒはその場から消滅。白刃は空を切った。サムライの――一ノ瀬春木の、暗い目がすっと細められる。その背後に、二人分の着地音。三条亘が、ユウヒを抱えて地面に転んでいた。
「ルウ、行って!」
 五十嵐ルウは、むずむずと胸中を這い回るものを感じていた。それは、もちろん、愉悦や、快感や、そういうものではなくて、だが、溶岩のように爆発する激情でもなくて、ちょうど、火種が、薪に宿って、その身をふくらませようとしている、あの瞬間――それは血が湧く、、ような『勇気』。
 「おうっ!!」と元気に答えて、ルウは本堂へ駆けだした。背後で、一ノ瀬春木から、あの黒い気配が膨らむのを感じたが、ユウヒがそれを妨害する。
 ルウはそれを背中に、恐ろしく静かで、暗い、底の知れぬ洞窟へ、久住院本堂へと駆け抜けた。

















「な、なにこれ。どうなってんの……」
 なちは、あたりに満ちていた閃光が収まったのをかんじて、目を開けて、呆然とした。自分のまわりの結界はもちろん、久住院に張られていた結界の気配も消えていた。辺りを見回すと、爆風のせいか、いくらか障子が倒れていた。あたりはまだもうもうと埃がたっていた。
「あ、あれ!? あの術本が……無い……!?」
 ふと手元を見ると、爆発の寸前まで持っていた紅い本が無くなっていた。衝撃で弾いてしまったのかと思って、あたりを探ろうとして、すぐ足下に、黒い服を着た少年が丸まって倒れているのを見つけてギョッとした。八代あわいだ。なちはさすがに動転して、「ちょっと!」と叫んで、煤だらけの少年を起こした。白い頬をひっぱたき、肩をゆさぶるが、薄く閉じた目が開かない。小さな手のひらの指がぴくりとする気配もない。胸に耳をあてると拍動はあった。なちは急いで、ちかくの瓦礫で指先を切って、術符に呪文を書き付けた。少年の矮躯にかざす。四家の術のまねごとだが、なちはこの家の術が一番苦手である。どうしても、かの当主のような効能を出せない。今回も、ほとんど気休めのようなものだった。
「ちくしょう……」
 それにしても、あの詠唱は何だったのか。あの詠唱がもたらした術が、結界の崩壊を招いたことは間違いなさそうだ。ふと目に付いたものだったが、自分は何故か最後に、「神霊」を喚ぼうとした――あれが、六年前に、五十嵐ルウが触れたという、神霊降ろしの詠唱なのか……。


「残念でしたネェ」


 ふいに、耳元に息が当たった。全身が悪寒を吹き出し、毛穴が粟立った。
 なちはあわいを抱えて、そのまま縁側の向こうへ飛び退く。そして、そこにたたずむ黒く細い人物を目の当たりにして、自分の息が止まる音を聞いた。

「アレはね、レギナを喚ぶ詠唱じゃないデスよ」

 似ていますけどネ、と、その青年は、涼やかな笑みを整った顔に浮かべた。プラチナブロンドの長髪が、曇天のにぶい日光の下で、ちらちらと光っている。長身痩躯、全身黒のカソック。そして胸元に、シルバーのロザリオ。
「詠唱はチャンとしなきゃ。でないと、違うモノを喚び寄せてしますマスよ」
 ――私みたいなネ、と、神父は親しげな笑みを浮かべた。


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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