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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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  「走っていけ。殴りに来たろ? 声を聞きに行け。見届けただろ?」



ハルシオン・ブルー外伝 20




 彼の親族に、結局伝えることはしなかった。それは我々の、正直、甘えというか、どうしようもない希望的観測に大体由来していた。まだその事実の顛末を、誰も見ていないことと、なにより情報が錯綜していて、何が起きているのか、当事者たる当主たちにもどうとも出来ていない。
 四家の者達は、あちらから、吉野に来るのを拒んだということだった。当主の選択に従うということだ。せめて、シキガミだけ、結界のまねごとにように置いてきた、というのが六東の者の報告だった。
 吉野の山も、いつ攻め込まれてもおかしくない状況になってきた。一応、戦闘もこなせる六東家のものたちが、近衛のようにあちこちに張りついているが、彼らの力は、当たり前だがはかないものだ。本来術力というのは、その家の当主にのみ宿るもので、一族の者たちのは、上面のものに過ぎない。一方、官軍には外来の新式軍備が整っているのは自明だった、なにしろ、五十嵐がその貿易を支えていたのだから。

 内戦か、と、ルウはぼんやり中空を見た。そうだ、内戦だ。本当は六年前に、ルウが大結界を壊した混乱の折、コレが起きるはずだったのだが、九重当主がそれを止めたのだった。

 ……これ、『あの男』の差し金だって、思うつぼなんだって、知らせなきゃ。外洋が攻めてくるかもって。ぼくらは、国と戦うつもりなんか無いって、京都のみんなの意思は今のぼくたちの総意ではないって、伝えなければ、発信しなければならない。
 でも、動けない。身体の中心の、大事な機能がギュッと詰まった箱が転げ落ちてしまったよう。その箱以外に、なにもなかったのかと自分で呆れるくらい、なにも残っていない。
 春木にいさん。
 まだ誰も欠けていない、から、大丈夫、と抱きしめてくれた。あの感覚がまだ残っている。信じられなくて、喉が締まる。良い子だって、頭を撫でてくれた、あの感触も。
 彼が死んだなんて嘘だ。しかも、彼の死体を使っているのが、あの子だなんて、もっと嘘だ。
 もう、どうすればいいのか、わからない。 






 ――ああ、なんだ、マスター。実に簡単な答えだ。それはな……

 彼は振り向かないが、なんとなく気配で、ニヤッと、いつもの笑いを浮かべているのが分かった。あの、知識のない主を教え諭す時の、優越感ばりばりの、たちの悪い笑みである。

 ――気の迷いだ。たちの悪いものだから、死ぬほど疑ってかかれ。

 なんだと、コイツ、こちらが真剣に悩んでいるというのに、と、食ってかかろうとすると、いや待て待てと、手で制される。

 ――そういうものが、人間の生きる道にはうようよしてる。それはとても分かりやすくて、とても真実らしい。ある時は本当に真実だったりもする。信じて良いこともある。でも、マスター、それは疑うべきだ。分かりやすい真実は、君の目が曇ったときにやってくる。
 
 いつの間にかニヤニヤ笑いが消えている。でも、こいつは終ぞ真剣な顔をするということがない奴だ。やっぱり、どこか、気の抜けた雰囲気で息を吸う。

 ――でも、疑って、疑って、気が狂いそうになるほど、信じられなくなった頃に、何かが、そうだな、砂粒ほどの何かが君の手の中に残っていることがある。それは、もう絶対疑うな。死ぬほど信じてかかれ。

 なんだ、それ。いちいち難しいよ、と訴えると、まあ、仕様のない奴、という嘆息を吐かれて、それから水色の髪の毛を面倒そうに掻いて、

 ――確かめにいけ。這々の体でやっと握りしめてこそ、もう二度と君の中では揺るがない。あの日、君、俺の前でやってのけたじゃないか。なあ、空に果ては無かっただろう。
    走っていけ。殴りに来たろ? 声を聞きに行け。見届けただろ?
    

 それでこそ、俺のマスターだったぜ。最後にもう一度、空色のシキガミはニヤリと笑い、しかし二度と振り返らなかった。











 うたた寝から目覚めた時、本当は泣き出したかった。情けないことに目の奥がじんじんして、今にもぼろり、と零しそうだった。でもこらえて、五十嵐ルウは考えた。あの日、丘を走って下って、海へ行った時、耳元を切っていた風音が、今にして鼓膜の向こうによみがえる。会いに行った時だ。アイツに。
 気の迷いだと、このやろう。あれから六年だ。お前の時間は経っていないかも知れないが。
 びゅんびゅんと風を切って走っていく。五十嵐ルウは考えた。じっと空中を睨んでいた。
 空が完全に白んだころ、ルウは仲間たちのところへ行った。







「敵対する」
 の、一言の時、ユウヒがあんぐりと口をあけ、織里の瞳が見開いた。寝起きの亘は、要領を得ないでぽかんとしている。
「刃音たち京都勢と、ぼくらは正式に離別する。アイツらを、敵と見なす。官軍にも『ぼくたちは関係ありません』って言いに行こ。そうすればぼくたちと吉野は手出しされないでしょ、宣戦布告したの、刃音だし。官軍斬ったの、春木兄さんだし」
 その名前を出したとたんに、ユウヒに胸ぐらを掴み上げられた。亘が条件反射のように、ユウヒを諫める声を出したが、ルウに向ける視線にも混乱が混じる。「見捨てるんか……っ」と、押し殺した声でユウヒが唸った。
「違う! そんっな疲れた目で何言ってんだ、ばーか!」
「あァ!? もっぺん言うてみい!」
「ばーかばーか!! お前が落ち込んでどーすんだ、ばーか!」
「三回言えとは言ってへんやろがあ!」
「先生、そういう問題じゃないよぅ!」
「そうそう、ルウちゃん。もって詳しく聞きたいわ」
 亘と織里がとりなして、ようやくユウヒはルウから手を離した。(また下手なことをいえば、飛びかかってきそうだったが)。ルウは大きく息を吸い込んだ。真新しい朝の、清明な味がした。
「僕ら、アイツらと戦うんだ。戦いに行くの」
 行くんだ、と五十嵐当主が繰り返したところで、のこりの三人の、疲れていた瞳に、さっと光が射した。ああ、と得心した顔になり、それから、それぞれ何か言わんとして、それぞれ飲み込んだ。
 五十嵐ルウは仲間たちの、その顔を見て、耳元で風が強くなるのを聞いていた。



 その日の午前中に、反旗を翻した術家に対応すべく編隊された官軍の屯所の真上から、屋根を突き破って人が四人落っこちてきた。驚きふためく官軍を前にして、彼らはしきりに、そのうちのひとりの少年(ワタル、と呼ばれていた)を責め詰って怒鳴りつけたあと、官軍にある提案を持ちかけた。

 さらに昼時には、官軍は編隊を完全にやり直すことになる。対術家ではなく、全国の海洋警備にその戦力を充てるためである。術家のほうは、その四人がまさに千人力であった。
 彼ら、五十嵐勢――五十嵐・二名・六東・三条当主と、吉野山の勢力――が、京都の術士と反目することを宣言したからだ。(五十嵐勢という呼び名について、彼らのなかで、二名と争いがあったようだったが)。
 まさしく、餅は餅屋、官軍にとっては渡りに船で、術家の内紛は術家の者に鎮めてもらうことにした。また、元来貿易の重鎮であった五十嵐家当主から、外海からの来敵の恐れ有りとの知らせが入る。開国爾来、外洋に関しては彼らの言葉を信じるべしと言われてきた。術家のことは全て彼らに任せる代わりに、官軍はその知らせを信じたのだった。


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