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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝十五

「刃音がみんなを守ってあげる。だって君たちは、なんにも悪いことなんかしてないんだもの」


ハルシオン・ブルー外伝 十五


「……良いの?」
 問うたのは九重刃音で、問われた方は神父だった。「ええ?」と、大げさに肩をすくめて見せてから、神父は銀色の瞳をすがめた。芝居がかった様子で両手を広げ、なにが?、という素振りをする。ユウヒかルウあたりだったら、殴りかかりでもしそうな態度だが、刃音は全く動じないで、「あの子達」と空の一点を指した。最早曇りかけた夕暮れ空が広がるだけの空を。
「ええ、構いませんよ。振り出しに戻るだけデス。ゴールは揺るがない」
「刃音は時間が無くなった。疾くお前を退けて、みんなを守ってあげなきゃいけなくなった」
「この国で? もうどこにもあなた方、安住の場所なんて無いデスよ?」
「良い。つくる」
 ……御当主こっえー、と、背後で春木に泣きついているのは四家鷹久である。一ノ瀬春木は精悍な顔を苦笑させて、そばにいた八代間の手を取り、近くへ引き寄せた。八代当主の矮躯が、素直に春木の足下へ来る。黒衣の少年は、真面目そうな黒瞳を一ノ瀬当主に向けた。
「あわい、って呼んでいいかな」
 こくっ、と間は首肯。
「じゃあ、間。お前は、これから、刃音ひとりに結界を張るのに全力を注いでくれ」
「そうそう、オッサン達はいいよォ~。そのぶんの力、全部御当主にね。チビ助、御当主の戦い方見るの初めてだろー?」
 こくっ、と間は首肯。
「あの人はねェ、まさしく一騎当千なんだァ。日ノ本の国、術家が総元締め九重一族だけが持つ、最強の能力だよ」
 見ててご覧、と、白髪の青年は、弟にでも向けるような穏やかさの微笑みを浮かべて、間の頭を撫でた。「そうだな、」と頷くのは春木である。幼なじみで、かつ一ノ瀬家が直属する宗主でもある九重刃音の細い背中を眩しそうに見て、サムライの青年は目を細めた。
「……九重は『ウツロ』を遣うんだ」
 見守る三人のはらわたが、ずん、と重力に耐えられなくなったように重くなったのはその時である。場の気圧が高騰、久住院の中庭だけが重力を倍にされたかのようにあらゆる有形物が頭を垂れる。寺院を囲む竹林が、一度ザワッとしたかと思うと、死んだように静まり返る。全ては重力場の中心にいる一人の少女へ向けて。「はじまるよ」、と鷹久が間に耳打ちし、春木は刀を抜いて前へ出た。
 ――久住院は京の都に名高い大寺である。歴史は旧く、飛鳥の頃を開眼とするとされ、その敷地内に持つ檀家墓地には歴史の足跡が多く遺る――時を同じくして、久住院のあちらこちらで、とある現象が併発していた。『ある者』は墓地の影から。また『ある者』は庭の楠の木陰から。……いくらもの人影が、むくり、むくり、と煙が立つように現れて、須く、音もなく――中庭を目指す。
 九重刃音は、異なる者達を生む苗床のようになった自らの屋敷を背中に、口を開いた。
「……一ノ瀬は武芸、二名は医薬学、三条は空間、四家は治癒術、五十嵐は呪い、六東はシキガミ、七野は頭脳、八代は結界。そして九重は、『虚』を司る」
「ホウ、……それは初耳ですねェ、『ウツロ』とは」
「死者のことだ」
 ザッ、と砂利を踏みならして刃音に並んだのは、抜き身の刀を構えた一ノ瀬春木である。空色の着物をはためかせて、春木は刃音を背に庇うでもなく、後ろに回るでもなく、横に並んで神父を睨んだ。
「肉体死して尚、その強固な未練から死に損なった死体達を、九重だけが操れる」
「んん~、手前さんのお国じゃア、確か、そうそう、『ぞんび』というんだよねェ~。晴ちゃんがゆってた」
 と、同じく刃音の隣に立つ四家鷹久。
 「ネクロマンサーってことデスね」、とにっこり微笑んで、神父は、刃音の背後の久住院を見た。荘厳な屋敷は、この数刻の間に、まさしく人体を生む魔物のようになっていた。屋敷の中からはむろん、屋根瓦のうえ、柱の影、庭の柳の幹からも、生えるように人影が生まれてくる。彼らから吹き出ている不気味な色の空気は、全て九重当主の少女に集約している。彼女が生んでいるのだ。神父は、白い肌に珍しく驚きのようなものを浮かべて、「なるほど」、と呻いた。
「……お前が相手にするのは、この国のかつての、非業な英雄達。不可死の志士共、幾千の都兵」
――「よろしくお願いします」。刃音が軍配を振るように空中に手を振り抜いた。同時に、幾千ものウツロが猛然と特攻を開始する。







「刃音はねぇ、双子の妹さんが居たんだよ」
 ……何の話、と、押し殺した怒り声で、なちは隣の五十嵐ルウをにらみつけた。二名、三条、五十嵐、七野、そして彼らを運ぶ白虎の操縦者六東は、京の都の上空、雲の上を、滑るように駆けていた。巨大な白虎の毛に体を埋めないと、冷風が容赦なく吹き付ける。彼らを取り囲む空は夕暮れ時に染まっており、地平のあたりはもう青黒くなっている。びゅうびゅうと鼓膜を叩く風音にかこつけて、ルウの言葉を無視しようとしたなちだが、言葉のうちに当主の名が出たので思わず反応した。
「僕たち、きょうだいのどっかを奪って生まれてきたじゃん。僕は晴次兄さまの脚だし、ユウヒは冬月さんの心病で、織里ねえさんはリツ君の声、なちは弟たちの目だよね。刃音はね、双子の妹っていう、人間まるまるひとりを奪って生まれてきたの」
「……なに、今更、そんな話。あたしたちなら、誰でも知ってる。なめてんの」
 そうじゃなくって、とルウは茶色がかった長い黒髪を風に流しながら、細い顎を持ち上げた。
 ――きょうだいが居ない、というのは三条亘もそう。だが、亘は元からひとりだった。ゆえに力を持たない。しかし刃音は双子のひとりを丸々『喰って』生まれたのである。その力の強大さといったら、他八人の術士でも比肩することすら不可能である。まさに総元締め九重の名に相応しい少女である。
「だから、刃音ちゃん、代わりに私達のことを大事にしてくれるのよ」
 ふいに前方から声がした。穏やかなその声、唯一九重当主を「ちゃん」付けで呼ぶのは、六東当主の織里である。
「……この国に不要だと言われたって、あの子が頑張るなら、私たち、生き残っていけるわ」
 現在の白虎はまず京都に直近の近江地方――六東に向かう。織里の弟律人も、織里に同じシキガミ使いなので、移動の脚をまず確保する為である。神父のいうように、政府が外交取引に応じたというならば、術家が健在では外洋に示しがつかない。おそらく早々に官軍が各地で蜂起する筈であった。
「……時間がない、よね。おれ、やっぱりここからでも飛ぶよ!」
「なんでアンタが一番焦ってんの、ワタル。もう! ヘンな負い目はいい加減にしろって、ユウヒにさっき怒られたじゃん! ねえ、ユウヒ」
 亘がそう言い出したのも、きょうだいに大きな責任を感じている仲間たちのことをよく理解しているからである。それがない、という負い目を自己犠牲心で補おうとしてしまいがちなのが、三条亘の悪癖だ。自分より女の子みたいな亘の頭をひっぱたきながら、ルウは、巨大な白虎の耳のうしろあたりでじっと座っているユウヒへ、ひょいと声を投げた。ユウヒは、「ああ」と重そうに首肯して、

「それがよろしかろう」

 ――その場に同乗していた全員の頭上に「!?」が閃いた。織里でさえ、ほほえみが若干引きつった。「『先生』ってつけて呼べといつもいつも」の類の反応があるものと予想していたルウは、完全に「ハァ?」と言いたげな顔になっている。
 当のユウヒは、凍りついた場の空気に全く気付かない様子で、再び空の一点を見つめている。彼の健康そうな肌色の首筋が、びゅんびゅんと過ぎる冷風のなかに、強い意志をもってピンと伸びている。それは、張り詰めている気配がする。
 それは、自分の内部でうずまく何かと戦い対処するのに精いっぱいな様子だった。自分の肌から外のことには、全く気を配る余裕がない。すべての心身機能が内部のことで手いっぱいなのだった。あっ、と、最初に声をあげたのが亘で、つまり最初にユウヒに起きていることに正確に分析を成功させたのも亘だった。
「織里さん、やっぱりおれ、先生と先に二名に行ってくる。おれならすぐ戻れるから」
「……そっか。そうね。それがいいかな~。あ、でも、急いでね。私たちはこれから半刻で六東について、そこから、すぐに各国へ散るわ。その時に間に合わなかったら、その後の連携がうまくいかないと思うの」
「うん。急いで行く!」
「もし、離れ離れになっちゃったら、吉野の山に来て。良い?」
「うん。じゃ、ルウ、なちちゃん、おれ行ってくる。先生、行こ!」
 なちちゃんだと……と、唸った隣の七野当主を黙殺し、ルウは、ユウヒの手を取って、空中へ飛び降りた亘の背中を見送った。「おい、ワタ坊……」というユウヒの声は、皆まで言わず空中の次元に織り込まれて消える。
『ユウヒは冬月さんの心病』。ついさっきの言葉を思い返しながら、五十嵐ルウは何となく鼻の奥がツンとするような、センチメンタルによく似ているがもっと獰猛な感情を覚えた。激情とないまぜになって、化学反応として涙が噴いたような気がする。だがそれも一瞬、曇り空に雲散した。そんな場合じゃないことは、地で最後に見た刃音の背中が物語る。
――暫くの飛行の後、織里が、妹にでもするように、なちとルウの前に屈んで視線を合わせ、「もう着くわ」。
「もしかしたら、暴動のまっただ中よ。それを押さえて、私の一族を動かすわ。六東の術士は近隣の国なら行けるから、それに、四家・二名・七野・八代の一族を救出させる。私たちは、官軍と戦うことに集中する」
――なっちゃんは、三条の術を近距離なら使えるわね?、と織里。なちは、分厚い書物を抱き締めて強く頷いた。
「いける。六東のまわりの術家はそれぞれ近いから。一ノ瀬、三条、五十嵐は遠いけど」
「その三つはあたしとリツが行くわ。だから、あなた達でとりあえず西日本はよろしくね」
 それと、と織里は今まで以上に二人の瞳をのぞき込んで加えた。
「さっきも言ったけれど、刃音ちゃんは不戦の態度を示しているわ、私たちは積極的に官軍と交戦しちゃならない。その時点で全面戦争になっちゃう。官軍も、造次転配に私たち抹殺を命じられて。……実際、どうなると思う?」
「……ぼくたち、術士血族は、神代から、この国の精神文化の土壌だった……」
「今まで住んでた家に火を付けて燃やせって、隣の家のヤツに命令されたようなものだ、戸惑うに決まってる! 何も知らぬ異人と売国奴ども、机上だけで出した指令、混乱が官軍に無いわけが無い!」
「そういうことね。まぁ……感情論なのだけど。とにかく、私たちは戦わない。官軍のとまどいを武器にして、目的は逃げること。逃げて……またみんな一緒になれば、刃音ちゃんがいて、当主が揃えば、どうとでもなるわ」
 そのとき、白虎が崖から飛び降りるみたいな動作で、雲上から降下を始めた。目も開けられないほどの冷風と、白濁の世界ののち、ぱっと視界が晴れる。亘の術で目的地の上空に飛び出た時の感覚に似ている。三人はまず、ほとんど同時に眼下へ目をこらした。京都・江戸武蔵に続いて栄える近江の土地、細かい砂子のように広がる町家。その町はずれに、極めて広大な土地を所有する、ほとんど森みたいな庭がある武家屋敷が六東だ。上空からの景色で、どれが六東か、と人の目で判断する前に、白虎は雲上からの落下速度を落とさずに直角に地上へ掛け始めた。「あっ、――突っ込むわね」、と今更のような織里の声に、ルウとなちの「えええええええ!!」という絶叫が重なった。
 ぎゅっと目をつむった瞬間に、魂ごと持って行かれそうなくらいの激しい衝撃に見舞われる。ルウは悲鳴を出す間も無く、土煙の中で虎の背中から振り落とされた。……着いたのか?
「どけっ!!」
 落下の衝撃で座り込んでいたルウの脇から躍り出たのは、分厚い術書を携えたなちである。一ノ瀬春木が抜刀する時とよく似た仕草で、七野なちは右手である頁から術を引っこ抜いた。ぱきんっ、と竹の割れるような音。結界!、とルウが認知した一刹那、術の波動をうけて土煙が、ザッと引いた。
 そして現れた光景に、ルウは驚きこそすれ、でも、それ以上に、やっぱりか、なにくそ、という負けん気が胸中にもくもくと立ち上った。
 なちが結界を用いて阻んでくれたその向こうに居並んでいたのは、官軍の赤旗幟を掲げた幾百とも見える、サムライの大軍勢。
 急降下で痛めていた耳が回復する。すさまじいまでの喧噪を聞き取った。「なんだ!?」「しまった」「当主が帰ってきただと!?」「京で異人が食い止めてんのと違うじゃないか!」。
 そのとき、すぐ後ろで白虎が大音声で、空も割らんというすさまじい吠え声を上げる。グォオオオオン、と地響きみたいな(実際音が肌に当たってビリビリとした)その唸り声で、官軍の中の騎馬が慌てふためく。
「織里ねえさん!」
「雑兵はこの子達が食い散らすわ、屋敷へ走って!」
 織里が懐からいくつもの紙片を取り出した。術士なら誰でも使える、シキガミ召喚の媒体だが、織里の使うものは殆ど伝令にしか使えない他のとは完全に一線を画す。何枚もの紙を、ぺろっと素早く舐めて、六東当主は一斉に空中へそれを投げた。中空で紙片はむくむくとふくらみ、ぼん、と爆発音がしたかと思うと全てが猛獣に変化する。まるで放たれた弓矢のように、官軍に向かって猛獣が降りかかる。なちとルウはその間隙で、砂利道を走った。「『食い散らす』って、さっき戦わないって言った本人、忘れてないよね……!」と呻きながら。降り立ったのは、六東の巨大な表庭の一角だったのだ。屋敷へはまだ遠かったが、ふいにルウとなちの首根っこが後ろから捕まれて、ふたりの脚が地面から浮いた。「わっ」と言ううちに、疾走する虎(西瓜丸より小振りだ)の背中にひょいと投げられる。織里だ。栗色の長髪を吹き流しのようにはためかせて、六東織里は声を張った。
「六東の者、聞け! これより我々の能力で各地の術家を救出に回る。術を使える者は使えぬ者を乗せて各地へ散れ! 各地の安全は……えーとね、五十嵐・七野両当主が保証してくれるわ」
 前半は大術家当主の顔で屋敷の者へ叫んでいた織里だが、最後の一言だけ、にこっと笑っていつもの調子になる。当主モードは三十秒ほどしか持続しないらしい。
 すると、屋敷の方から、西瓜丸よりは小さいが、充分に象のような白虎が、ひらっと身を翻して飛び出してきた。背中に小さな人影が乗っかっている。よく似た栗毛、中性的な顔立ちの少年、織里の弟の律人である。
「じゃ、私、リツと行くわ」
「えっ、も、もう!? お屋敷は」
「要らない。これからもぬけのカラにするし」
「っていうか、二名と三条、間に合わなかったじゃない! 最悪!」
「二名の家は、先生とお兄様と、ほんの数人の家人しかないわ。亘くんががんばれば、平気かしらね」
 じゃ、また、あとで、吉野の山でね。織里はそう微笑み、なちはものすごく嫌そうな顔をして、ルウの服のすそを摘んだ。そして術書の三条の頁を手繰り、短い口上を吐くように言って、二人の体は、白虎の上から掻き消える。
 まずは、四家へ!


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プロフィール

林

Author:林
いらっしゃいませ
こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
主にネタメモ、突然ネタメモ

オタクなこととかやおいなこととかきもちわるいこととか普通に言います
やな人は帰ってください

●文芸部特別企画
第一弾
流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
夢十夜

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