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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝十四

 『神霊』とは、ある人間が死後、文字通り神霊化したものをいう。生前の強大な魂ゆえに死ねず、永遠を約束された、神のごとき死者。人間は普通使役すること敵わず、もし望むなら、あるいは千人の生け贄、あるいは百年の研鑽を覚悟せねばならない。しかしそれでも呼び出せるのは、神霊の『分身』にすぎない。神霊は『本体』を持つ。召喚に応じるのは、その分身のみである。
 ゆえに、神霊は不滅であり、たとえどれだけ『分身』が死のうとも、微塵も、終焉を見ることは無し。



ハルシオン・ブルー外伝十四 「うらぎり」


「あなた方は、おそろしく強イ」
 金髪が、鈍い陽光にあたって白く光る。曇り空は晴れる気配がない。もしかしたら雨になるかもれぬ。どことなくじっとりと湿気を含んだ空気が、青年の黒衣にしみこんで、まるで鴉の濡れ羽のようだ。
「外洋には神秘的だったということもありマスが、この国が開港した時、我々が手を出せなかったのは、あなた方の存在が所以デス。でも、大陸植民地への足がかりが欲しい外洋は、喉から手が出る程、この国が欲しいらしくテ。だから、私が来まシタ」
 ――私は神霊デス、人ではありまセン。神父を名乗る青年は、静かな声で言って、視線を九人の当主順繰りに投げた。
「何度死んでも、私はあなた方を追い続けるでしょウ。命が下れば、陰惨にでも殺しマス。それでも戦いマスか? 今、一族郎党降伏なさるなら、どこかの異国への流刑でも良いんデスよ?」
 神父の落ち着き払った声の間に、九人の術士達の顔が一様に、みしっ、と音でも立てそうな勢いで剣呑になった。「殺す」のあたりで、二名ユウヒのこめかみに青筋が立ち、「戦いますか」で三条亘が目つきを鋭くして、「一族郎党」のあたりで、四家鷹久が冷笑を浮かべ、八代間の鉄面皮が反応。「降伏」のあたりで、七野なちが本を握りつぶしそうになって、「流刑でも良いんデスよ」で、六東織里の虎が主人に代わって唸り、最後の「?」のちょっと上がった調子に、五十嵐ルウが「ハァ?」と女子にあるまじき声を出した。
 一ノ瀬春木を助け起こした鷹久のそばで、彼の安否を気遣っていた九重刃音は、一気に冷却した仲間達の空気の中で、まるで平素の顔で、神父を見た。
「――そのままお返しします」
 後ろに仲間全員の殺意を載せて、刃音は鈴のような声で言った。
「刃音達は日ノ本の国<影皇>の一族です。時流が我らを旧慣としようとも、易々と矜持を捨てるほど愚物ではありません」
「ほう、影の王族。なるほど、言い得て妙。では、この国を影ながら支え続けたあなた方に、もう一つお知らせがありマス」
 神父を名乗る青年は、腹の底からわき上がったような婉曲した微笑みを口角に貼り付けた。まるで道化が化粧で無理矢理微笑みを描き出したかのような顔である。彼が、ピン、と立てた人差し指は、もうそろそろ夕焼けのやってくる空の一点を指していた。
「あなた方は、この国によって既に売られました」
 最初の数秒間は、九人のほとんどが、彼の言うところを理解出来ずに、怪訝な顔で停止した。神父が続ける。
「外交取引――関税自由化・平等通貨・治外法権撤廃・技術の譲与・軍事力の提供と引き替えにあなた方の首、という我々の取引に、この国の政府は乗ったのデスよ。万事極秘裏に進められましたので、ご存じなかったでショウ? 私はこの国に『招かれた』んです」
 ……良いデスか、と神父が噛んで含めるように言った。彼の温厚で上品な微笑みの裏側に、何かどろどろとした、支配者の愉悦のようなものが見え隠れする。
この男は既に『侵略者』ではなく、『支配者』なのである。
――九人の当主達は、そのどす黒い侮蔑を一身に受けながら覚悟した。不思議と誰からも、嘘だ、とも、えっ、とも、なにも漏れなかった。九人ともただ黙っていた。
「裏切られたのデスよ、旧慣の志士。もう全てがあなた方の敵になりましタ」
 そのとき、既に、信じる・信じないの話ではなかった。九人一様の胸中に去来したのは、混乱や当惑や絶望や怒りでもなく、その前に、郷里のきょうだいと家族のことであった。五十嵐の悪夢が再び明滅し、その下手人が目の前の男ではなく、同国民にすげかわった――彼らがしたのはそういう見解だった。神父を京都に留め置いて、身を賭して屠れば、各地の家族は無事だと思ってやってきたここ数日の動きが、実に動的にひっくり返った。『裏切られた』。確かにそうだった。
 九人をそのとき支配した沈黙は、後から定義すれば絶望と形容できたのかもしれなかったが、彼らの胸に発生したのは、ただ沈黙の真空であり、そこには何の激情も芽吹かなかった。全員が全員、これから始まる嵐のにおいを感じていた。これから、長く険しく、湿っていて見通しが悪い、修羅場の道が、目の前に現れたのを固唾を呑んで見ていた。
「二派に別れよう」
 最初に言葉を発したのは、やはり九重刃音であった。刃音は一同を素早く見渡して、冬の泉のように落ち着いた瞳で言葉を次いだ。
「移動の術が使える子――亘、織里、なちは全国へ。ルウ、ユウヒ。三人を守ってあげて。神父は、刃音と、春木、それから、鷹久、間でここに留め置く」
「……っ、たった四人で、あいつと……!」
 思わず声を上げたなちの肩をそっと叩いたのは、四家鷹久だった。「大丈夫」と喉の奥で笑って、
「なっちはまだ、ご当主の能力見たことがなかったね。あの人はね、一騎当千なんだよー」
 平気、平気、とヘラヘラして、負傷した春木に肩を貸しながら、「ねぇ」と彼に同意を求めると、春木も掠れ声で「ああ」と言った。
 刃音は一瞬だけ、ルウとユウヒを見て、ルウもユウヒもなにも言わずに、亘を負ぶって、なちを織里の白虎に乗せた。刃音の指示からほんの数十秒の間の出来事である。胸の真空に迫られるように、九人は何の言葉も掛け合わないで、ただ視線だけで、互いに、残る者を必死に目に焼き付け、行く者の背中を押した。
 白虎の脚がいよいよ浮いて滑り出しかけた時、ルウは、残る四人に向かって、「すぐ――またね!」とそれだけ声を上げた。

 「ああ」、と春木。「お願いねー」、と鷹久。間は無言で頷いて、刃音が「うん」と微笑んだ。

 それが、長い別離の幕開けであったことは、もちろん、そのときの九人が知るよしもなかったが、夕焼けは、夜の気配をつれて確実に現れていた。白虎の背中で、空が近くなるのを感じながら、ルウは真空になっていた自分の胸に、今更のように激情が生まれたのを感じて、弾けるように遠ざかった仲間達の方を見た。すでに遥か下にあって、その姿を認めることは出来なかった。

 


以下、ボツにした鷹久となちのプチ話

 ――なち、いらっしゃい。

 ある秋の日の朝、母にこう呼ばれた時のことを、なちはよく記憶している。生来記憶力が尋常でないのもあるのだが、このいくらかの時間のことは、鼻に触れる空気の質や、庭のもみじの、どの葉がすでに紅かったかとか、そういうのまで憶えている。
 ――四家のご当主さまですよ。お初に拝顔するでしょう、ご挨拶なさい。
 客間の障子をやや開けて、顔を出したなちに、母はそっと囁いた。なちにとって、明確な記憶がある範囲で初めて会った「仲間」であった。生まれたころ、九重様に拝謁したらしいが、それはさすがに、まったく憶えていない。
 掃き清められた白い畳間の、真ん中あたりで、紫の着物の青年が座っていた。なちは無礼なことも忘れて立ちすくんだ。彼の髪の毛が白かったからである。障子の間からこちらを伺う幼子に気づいて、青年は自ら立ち上がって、なちの前へ来た。細い体からなんとなく煙草のにおいがし、なちに視線を合わせてかがんだ時目の前にあらわれた白髪は光にあたると透けてみえた。
「初めまして、七野が領姫」
 四家の当主はまずそう言った。形式張った挨拶ではなかったが、家の外のものから多少なりとも敬称を貰うのは初めてで、なちはなんだか気が引けた。
「俺んちの辺境の土地まで、きみの評判は届いてるよ。とても頭が良いんだってね」
 ……天才だって? 白い髪の青年は微笑んで、なちの瞳をのぞき込んだ。突然なれなれしくなった彼の口調もそうだが、何となく好きになれない単語を言われて、なちはこの男を嫌いになることにした。テンサイ、テンサイ、とは、なちが物心ついたころから言われてきた評価で、この言葉の意味はよくわからないままだ。気に入らないりぼんで勝手に髪の毛をいじって装飾されているような気分になる。
 棘が生えたなちの雰囲気に何となく気づいたのか、四家の当主は面白げに喉を鳴らした。
「髪の毛からまで、本のにおいがするよ。頑張り屋さんだね」
 と、白い指でなちの髪の毛を撫で付け、彼はそっとなちの小さな耳に耳打ちした。
「その英才、姫の実力に依らしむるところであることを」
 だって、天賜にしては、紙くさい。四家鷹久がまた笑った。


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