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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝十三

 結局、何者なのか。
 分からねばならないことのほとんどがさっぱりつかめないままだった。というより、探るような隙を見せていたら、今ここに生きていないと思う。五十嵐晴次は、床の中で半身を起きあがらせながら、じっと膝のあるあたりを睨んだ。術符を使いすぎたせいで、手の十指は傷だらけになっていた。厚く布をまかれたせいで、ほとんど動かせないので、元々脚の無い晴次はほとんど手足を封じられたみたいな気分になって、ただ中空を睨むくらいしか出来ない。
 ただ少し。気になることがあった。対峙したとき、記憶の端にひらめいた水色が不可解だ。だが似ている、似ているのだ。根拠はない、ただの錯覚かもしれないが、本能が言う原始的な印象。
 誰もいない部屋で、晴次は検分するように、気がかりの記憶を吐き出した。


「……レギナ……」




ハルシオン・ブルー外伝十三



 身体能力不明、正体不明、ただし、とにかく、おそろしく強い。何度かの邂逅で、当主達が敵について仕入れた情報は本当にそれくらいのものだった。それに、「彼」の纏うあの禍々しい雰囲気が、この国の術士には毒気であること。
 五十嵐ルウは、気になっていることがあった。先刻彼と対峙した時の彼の言葉にある。自分の背後に突然迫った黒い殺気、金髪の下で品よく笑った顔が言った、
 ――『レギナ』。
 それだけじゃない。彼と一合も二合も手を合わせて、たのたたずまい、体の雰囲気、空気の色、全てに――全然、姿形は似ても似つかないのに――あの水色の記憶が明滅する。根拠はない、ただの錯覚かもしれないが、本能が言う原始的な印象。
 最初は確かめなくちゃ、と思った。でも、そんな余裕が無いことが戦って分かった。そんなこと考えていたら、そのために手が鈍ったら、傷つくのは仲間達だ。それはだめだ。でも、もし、……もし、彼が、『神父』が『レギナ』とつながるのなら、もしかして、対処の鍵を握るのは、ボクかしれない。
「結界、解くよ」
 ルウの思考を遮ったのは、刃音の凛と通る鈴の声である。ハッ、と顔を上げると、ふいに彼女と目が合った。彼女にはいろいろ見透かされていたようだ。でも、刃音は、涼しげに微笑んで、それから安心させるみたいに頷いた。
「じゃあ、みんな、無茶はしないで、頑張ろうね」
 九重当主のその声に、全員で頷いた、その瞬間。ぱちっ、と竹が割れるような音がして、八代間が、神父の拘束を――解いた。
 ――「春木ッ」と刃音の声が飛ぶ。その指示を聞かずとも、前線へ出たのは一ノ瀬春木。春木兄さん、とルウが思ったその間に、八人のすぐ目の前(、、、)で、春木と神父が激突した。刀を抜いた春木と鍔競り合うのは、神父の黒い腕、である。二人とも押し負けない。
「……先日は一ノ瀬の本領、見せずして失礼仕った」
「私の初撃を受けるとは、イチノセ・ハルキ」
 春木が神父を止めている間に、二名ユウヒ・五十嵐ルウ・六東織里・七野なちが散開、まず六東が巨大な白虎を従えた。平素の安穏とした微笑みを浮かべた美女は、首筋の後ろのあたりに猛獣のうなり声を貼り付けて、愛獣の白い毛を撫でる。「絶対逃がしちゃだめよ」と、虎の耳に囁いて、柳のような手で、行け、と神父を差した。
「なち! 五十嵐の術符は模倣できたよね!?」
「無礼なっ!」
 ――決まってるだろ! なちが、抱えていた大きな本を開き、五番目の章で手を止める。口早に何かをつぶやいている間に、五十嵐ルウは兄が書いた符を指に番える。
「二人とも! 西瓜が突っ込んだら同時に撃って!!」
 織里の声が飛び、ルウとなちの研いだ神経が限界にまで締まった時、空気を読んだ春木が後退をしようとするが――神父がそれを、させない。剣戟の押収が止まない。ギリギリの駆け引きで春木が攻防している。一瞬でも退くそぶりを見せたら懐に入られる。「しまった、」となちが歯噛み、織里の白虎が二人に迫る。「春木、退いて!」と、織里が叫んだ。
「こっちもおるで!」
 ふいに神父の横っ面のあたりに、二名ユウヒが現れた(、、、)。急襲の拳に、刹那だけ驚愕を見せた神父だが、身を旋回、それすら、凌ぐ。どこから――と神父が勘ぐる間、ニヤリと歯を見せて笑ったユウヒが、またもや消失。「なに、」と、神父は目を瞠る。
 黒い悪魔と、攻防する空色のサムライ、迫る猛獣の隙間に、ひゅるりとすきま風が吹く。春木がそよ風を頬に感じた瞬間、自分の背後より、幼いてのひらが、にゅっと現れた。
「――三条(サンジョウ)!!」
 神父が吐き捨てるように言ったその時、春木の服を掴んだ三条亘は、空間の隙間に彼を引っ込んだ。
 サムライが消える。戦場に、神父と虎が残る。
「今だ、二人とも、撃ってえ!」
 何メートルも後方で、春木とユウヒの手をひいた亘が叫んだ。五十嵐・七野両当主はそれぞれ耳の奥で鼓膜がキュッと鳴る音をきき、刹那の無音を聞いてから、思い切り――引き金を、引く。
「喰らえぇ!」
 ルウの符が真っ赤に閃光、なちの本が黄色に燃え、巨大な炎の矢か神父にほとばしり、同時に猛獣の牙が首彼の筋に触れた。神父の白い顔が一瞬閃光に照らされて赤くなる。一瞬の真空を感じ、戦場は轟音を伴う大爆発に見舞われた。
「気を抜くな、これくらいじゃ、まだだ!」
 春木が声を上げたその横で、八代間が、パッと空中に手を引いた。竹の割れるような音がしたと思うと、同時に結界に激突した神父が退いた。「早い、」とルウが呻いて、次の符を掲げる。今爆発を確実に命中させてやった筈なのに! 今八代の結界が一秒でも遅かったら、懐に入られていた!
「――やぶられる!」
 八代が小さく叫んで、幼い顔をしかめた。間に合わせの結界では、戦闘状態の神父を囲えない!
 春木が走る。抜き身の刀が砂塵の中で光る。汚れた金髪の下で神父の目が素早く春木を捕捉、するが、サムライの方が一寸速い。とぎすました剣先が神父の肩口に――突き立った。
「――……!?」
 一ノ瀬春木の顔色が変わった。精悍な顔がしかめられて、血の気が引く。新たな攻防も始まらず、終えた筈の動作のまま硬直した二者に、周囲の緊張が走る。「春木にいさん……!?」と亘が悲鳴のような声をだした。
 ……どういうことだ、と、一ノ瀬当主は声を絞り出した。動揺のせいか、ほとんど声にならなかったそれを、至近にある神父だけは捉えたか、品の良い微笑みを浮かべた。
 ――そんなに意外デスか?
 ふざけて真似るようにほとんど息だけで、そうささやき、肩に突き刺さった日本刀に手を添えた。
 春木は目を瞠った。いっさいの血液が流れないのも、そうだが、まず、『人体を刺した感じ』がしなかった。筋肉の感触も無い。骨の軋みも聞こえない。まるで木を刺したようだ。
「まさか、おまえ……!」
 一ノ瀬当主の掠れ声に、神父は満足そうな笑みのまま「そう」と言って、流れるように白手袋の手を春木の腹へ押し当てた。ぞっ、と背筋が冷える。しまった、と脳みそが思うその前に、春木の内臓という内臓を衝撃が襲った。
 短い悲鳴を上げて一ノ瀬当主の痩躯が弾き飛ぶ。「春木っ」、「春木兄さん――!」、「ハル兄!」、当主達の叫声が上がる中、掛け出した四家鷹久が、投げ出された春木の体を受け止めた。四家当主は至って顔色を変えてもいないが、春木を抱き留めて、ゆっくりと神父を見たその表情は、怜悧なほどに無表情である。
 五十嵐ルウは、鼓動が早鐘のようになっていくのを感じていた。今、刃が刺さったのに――なにもない。ぼくは知ってる。限りなく「人」らしく、そして限りなく「人」より高度なその存在。ぼくは知ってる。ぼくの、直感と、そして記憶の両方がその答えを知っている
 まさか。まさか、まさか。もし、「そう」なら。もし「そう」ならば、ぼくらは永遠に勝てない。
 まさか――。
「そうデスよ」
 神父が、硬直した一同をぐるりと見渡し、最後に五十嵐ルウの目をじっと見てから、軽快な口を開いた。
「私は神霊(しんら)デス」
 ひょいっ、と投げるような声音だった。神父は長めの金髪の下で、口の端だけを持ち上げる笑い方をして、胸のクロスを撫でた。

 ――オレは、シキガミじゃなくて、神霊(しんら)だよ。

 五十嵐ルウの、昔に閉じた記憶の箱の中で、何かが起きあがる。
 水色の記憶がひらめき、少年と青年の間の、低くも高くも無い声が鼓膜の向こうにこだまする。
 ――神霊(しんら)は、使い切りのシキガミと違って、本体を持つ高度な存在だ。
    ……だから、今ここにいるオレは、本当のオレの『分身』みたいなもんだなぁ。
    
 ――『本当のレギナ』は、ずっと未来の、大結界の檻に囲われた日本で、死んだ、日本人の、少年なんだ……――

「分かりマスか?」
 神父の落ち着いた声が、ルウを我に返した。じわっ、と背中に脂汗が浮くのを感じる。『永遠に勝てない』。だって、だって、『この』神父を殺せても、『本物の神父』は倒せない――!

「あなた方は、最初ッから、私には、勝てまセン」
 









「私の代わりはいくらでもいるもの……」

って、神父に、言わせたかった(台無し


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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