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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハメシオン・ブルー外伝十二





 
 

ハルシオン・ブルー外伝
十二.「それぞれ」


「ごめんね、みんな。思わず宣戦布告しました」
 八人のところへ返ってきた刃音は、まず第一声にそう言って、ぺこりと頭を下げた。九重の屋敷の軒先に、九つの術家当主が肩を並べて立っている。背筋をしゃんと伸ばして頷く一ノ瀬春木。生傷だらけだがやけに目に闘志が覗く二名ユウヒ。行儀良く立って、唇を結んだ三条亘。へらへらして成り行きをみている四家鷹久。まっすぐ刃音を見返す瞳が強い五十嵐ルウ。巨大な白虎を撫でながら微笑んむ六東緒里。絆創膏の目立つ手で本を抱いた七野なち。はじっこの方で大人しくたたずむ八代間。
「ふふ、刃音ちゃんったら。あたし達の誰でも、きっと同じことするわ」
 六東当主は巨大な猛獣の横でそう笑って、「ねー、」と隣のなちを見た。なちは「ちっ」という顔で、さらに(少し距離をおいた)隣の、八代間をにらみつける。
彼が現れるまでなちは最年少当主だったのだ。彼女には真っ当な自負と矜持があったのに、それを突然――しかもこのタイミングで――ひっくり返されたのが気に入らないらしい。
「間は十歳だけど、とっても強いから、みんんな安心して背後をまかせて大丈夫だよ」
 そういって微笑む刃音の落ち着きっぷりといったら、あたりの全員にも伝染して、今からお茶会でも開きそうなくらい安穏としていた。しかし、ここにいる全員が数秒前までの、触れるだけで斬り殺されそうな殺気を持つ同じ背中を見ているので、どちらかというと、九重刃音という少女の空恐ろしさが臓腑に染みる。
「うん。じゃあ、みんな。行こうか」
 よしきた、とユウヒが不敵に笑って、隣にいたルウの背中を思いっきり叩いた。そして、幼なじみの耳元でこう囁いた。
「……五十嵐当主。シケたツラしとるんやない。みんながおるから、もう負けへんぞ」
 ルウはユウヒのことがあんまり好きではないが(昔から顔を合わせると喧嘩ばかりだ)、ここ数年ですっかり落ち着いたユウヒの低音は好きだった。昔は二人して男の子の遊びをしていたものだが、めっきりユウヒの男らしさには、もはや諦観に似た羨望みたいなものまである。ユウヒは男の子だ。とてもしっかりしている。
「わかってるよっ、そういうの、ボクじゃなくて亘に言ってよね」
「あいつやったら、ビビって泣いてまうやろ」
「……ふたりとも、おれに丸聞こえだよ……」 
 ルウとユウヒのさらにとなりで亘が涙目になっているので、ユウヒが悪い悪いと一応謝りながら、亘の頭をぐしゃぐしゃになで回した。亘は、五十嵐から帰還ののち鷹久とユウヒの尽力でほぼ全快をみている。亘は少しだけ、自分でも自分の中身の何かが剥離したように清明になったのを感じていた。よどみが消えて、まるで胸中で香辛料の粒が一つ、ぷちんと弾けたような、些細だが鮮烈な何か。あのとき、五十嵐へ行った数人は全員そうなのではないだろうか。また、あのとき、五十嵐から帰ってきた仲間を出迎えた数人もおなじに、何かが胸中で色を変えたような気がする。九人の当主が、役目を終えてから初めて降りかかる巨大で、そして人知れないこの試練に、全員の心持ちが、六年の時間を経てまたとぎすまされていくようだ。
 ルウは、自分のことをまた「ボク」というようになった、ということに、亘は――というよりか、おそらく、本人以外の全員が――気づいている。六年前に無理くり剥離してきた、未発達の自分を拾いに行ったようなそういう、退化のベクトルをした進化。
「もう泣かないよ、おれ。ちゃんとみんなを守るからね」
 そう言ったら、ユウヒとルウが、零れるように笑って、二人して、「頼んだよ」と言った。

「……いいねえ、あの子達。若いよね~」
「フフ、じゃあ、鷹久兄さんも私とやる?」
「ん? いやぁ、いいよ。オッサンは超後衛なんで、みんなのこと守るね~なんて、柄じゃないでしょ」
 そうかしら、と織里は微笑んで、自分の何十倍はある白虎の喉口を撫でた。
「鷹久にいさんは、みんなのお兄さんだもの。いるだけで充分だわ」
「……織里ちゃんたら、泣かせるね」
「ほんとよ」
 白虎の白毛に埋もれるようにして寄りかかりながら、六東当主は、その大きな瞳をまっすぐ四家当主に投げた。織里の瞳はいつも揺るぎない。まっすぐ前を向き、とても誠実で、けして打算がない。心の底まで見透かされている気になる。九人の仲間の誰一人にも、もちろん、そんな打算的な瞳をした者はいないと――まあ、自分を除いて、――鷹久は常々思っているが、なかでも、織里の瞳はまるでこれから神と結婚する娘のように高潔だと思う。眼力みたいなのがある。
「鷹久にいさんは、あんまり知らないんだわ。みんな、あなたのことがとても好きなのよ」
 鷹久は、それは、どうも、と笑った。織里は、そういうの、なっちゃんに言いなさい、と微笑んだ。

「八代間」
 なちの鋭い声に、黒ずくめの少年がゆっくり振り向いた。幼いのに切れ長の双眸がとても鋭い。鍛錬された実力からくる、歳不相応の落ち着きと分別くささが黒瞳にある。なちはなおさらおもしろくなくって、射殺す勢いで、年下の仲間をにらみつけた。
「あたしは七野当主だ。九家すべての術を管理する。なのに、八代はあたしの前に現れないから、いつまでも空欄のままだった」
 体中から敵意をむき出しているのに、八代間は、夜半の夜空のような深い黒瞳をまったく動揺させることなく、微動だにせず聞いている。それがまた癇に障る。
「お前を総覧すれば、あたしは本当の七野当主だ。だから、この戦い、あたしはずっとお前を見てるからな。お前は、絶対、術のひとつも出し惜しむな。あたしに全部見せるんだ」
 わかったか、と押し殺した癇癪を絞り出した。間は無感動な瞳をなちからそらさずに、うんともすんとも答えない。なんだか、その双眸と対峙していると、だんだん、こちらが負けているような変な錯覚に陥って、自分の独り相撲だったような惨めな感じもして、とうとう癇癪玉が弾けそうになった時、間が「それは」と口をきいた。実際、なちがきく初めての間の声だった。声だけは年相応の、まだ女のような、鈴の声をしている。
「……それは、頑張る」
 と言って、間はペコッと頭を下げ、それから、嘘みたいに小さな手を、前触れなく、なちと自分のあいだに空いた空間に、ひょいっと差し出した。なちが呆然としていると、間は、「挨拶が、まだ」と呟く。握手か――と脳みそが理解した瞬間に、なちの癇癪玉が雷鳴と共に大爆発した。
「お前なんか嫌いだっ、誰が仲良くするもんかっ! ばかやろう!」
 



 うふふ、と刃音が笑うので、その視線の先を負うと、なちにがみがみどやされて、手を差し出したまま、ぼーっとそれを聞いてる間がいる。春木も思わず吹き出して、
「……あの二人は仲良しになるなぁ」
 刃音は春木のぼやきを聞いて、「そうだね」と肩をすくめた。二人とも良い子だからね、と続けて、それから、「春木」と幼なじみの青年を見上げた。
「前線を頼むけれど、死にそうになったらちゃんと下がりなさい」
「ああ、大丈夫。でも、一ノ瀬は、九重の盾役なんだから、それはきちんとやらせてくれ」
「今は、春木と刃音の話をしているの」
「うん」
 一ノ瀬に代々伝わる業物の日本刀を、一寸引いて、また、かちゃんと鍔をならして鞘に収める。一ノ瀬春木は、精悍な顔つきで、それこそ、合戦に出る往年のサムライのような顔で、じっと遠くを見た。
「……嘘は吐けないな」
「知ってる。春木だもの」
 青年は苦笑し、刃音の濡れ羽色の髪に揺れる、鈴をあしらった髪飾りを撫でた。剣だこだられの武骨な指で撫でると、じりじりと具合の悪い音が鳴る。「もう大分古いから、新しくすればいいのに」と言うと、刃音は、「そうかなぁ」ととぼけたように言うだけだった。何しろ、春木がこれを刃音に上げたのは互いにまだ十とかそこぐらいの歳の時だ。もう鈴も心なしか燻している気がする。
 帰るときにまた新しいのを買おうか、と春木が言った。彼は嘘つきではないので、期待することにしたが、帰路の邪魔者の向こう側にある約束なので、履行まで我慢しよう。正門からまっすぐ続く白砂利の道の上、夕暮れの空を背負って、黒い背信者。
 刃音がその前へ出た。八人の当主が後ろに並ぶ。






十一から十二までは決戦準備の回でした。すすまねーすすまねえええ


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