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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝九

 



 何が変わったと思う? ――あ、ううん。違うよ。新しいものが入ってきたのはそう。
 だけど、もっと違うこと。
 ……え? だからぁ、洋服も、珈琲も、お菓子も、みんな新しいものでしょう?
 そうじゃなくて。
 今まで、ここに在ったものが、「変質」したっていうか……そういう意味で変わったってこと。
 
 っていう、ぼくも、よく分かんないんだけど。
 でもさぁ、最近考えるの。『一緒に生きる』って、そういうことなのかな?
 だから……、相手に合わせて変わっていくってこと。
 
 どうなんだろう。ぼくらは変わるべきなんだろうか? それとも、泰然とあるべきなの?
 ……えー、なにそれ。難しいこと考えすぎって!?
 しょうがないじゃん。いろいろ考える年頃じゃん。

 だいじょうぶだよ。さみしくなんかないよ。
 変えちゃいけないものくらい、自分で大事に守るもの。











「ああー、くそっ! みんなはダメじゃ。しょうがないから、俺がついてく。俺とルウと、あとなち、来い。お前がおれば、大抵の術使えるやろ」
 普段は、時間の流れを溜めたように静かな九重の屋敷も、今日びばかりは騒然としていた。時間は無いし、準備だってなにもない。術士達は役割を終えて六年経っている。それでも火急は火急である。なにより、五十嵐当主の少女の緊張が限界なのは誰にでも察せた。今にも破裂して泣き出しそうな彼女の前で、悠長なそぶりなんか出来ようがない。
 ユウヒは細い亘を背負ったまま、ルウの手を繋ぎ、なちの腕を引っ張った。ここから五十嵐に行くのは、この四人の当主になった。あとは京都に残る。
「先生。ヤバそうだったら、すぐに、話した通りにしてね」
「分かっちょる。っつうかハナからそのつもりじゃ。後、頼む」
「ああ。こちらの守りは俺達に任せて」
 鷹久、春木に、ユウヒが不敵に笑った。「すぐ帰ると思うで」、という言葉に、年長の2人して苦笑いになる。ユウヒにむりやり引っ張られて不機嫌にぶつぶつ言っているなちに織里が微笑んだ。「みんなのこと頼んだからね」、といわれて、最年少の当主は唇を尖らせて顔を背けたが、術符をいっぱいに貼り付けてある術書を(なちが一番大切にしている教本だ)、ぎゅっと抱きしめた。
 ばたばたと庭に飛び出したユウヒに、「ちょっと待って」と声をかけたのは刃音だった。ユウヒに担がれた亘の頭に、白魚のように細い手を伸ばし、
「三条当主。英断に感謝します。ご武運を」
 と微笑んだ。それから、
「みんな一緒だからね」
 と言った。疲れた亘の顔が、泣きそうな顔になってから、わき上がるいろいろなものをかみしめた口元で頷いた。ルウはそれを見ていた。焦燥で焦げた理性がちぎれそうだった。ユウヒが手を強く握ってくれて、それを見ていたなちが「早く」といらだった声でせかした。

 いきます、とユウヒの背中で亘が呟いた。ざわざわと風が立つ。ルウは心臓の音を五回数えた。その瞬間に、耳元から音が消えた。



 ブツッ、と、夢の緒をちぎった音が突然耳朶に響き渡る。ルウは体中で反応して、急に青に開けた視界に一瞬ひるんだ。だがすぐに自分を中心にして感覚がよみがえっていく。指先へ、繋いだ手へ、その先にユウヒがいて、ユウヒの背中に亘がいて、そのとなりになちがいる。「ユウヒ!」と叫んで、ルウはバッとあたりを確認した。急降下している。空だ。「捕まれっ」とユウヒが三人を抱き込んだ。コンマの差でルウは地面を視認。刹那を置いて、どん、という衝撃とともに土煙が五感に巻き付く。
 三人を抱えたまま四つんばいになって地面に着地したユウヒは、すりむいて血が出る自分の手足もほっといてまず亘をひっぱった。
「なち、ワタ坊庇っちょれ! 絶対に離すんやないで!」
 さすがにぐったりしている亘をなちに押しつけ、猫のようにあたりに全神経を集中させる。土煙がひどいし、それにまじってなにか焦げ臭い。嫌な予感がした。ここはちゃんと五十嵐かと確かめようと、ルウのほうを向くと、いまにも爆発しそうな気配で、憑かれたようにじっと前を見ている。違いない、ここは五十嵐の屋敷だ、とユウヒは脊髄が冷えた。
 絞めすぎた喉が、そのまま潰れるんじゃないかと思うほど長ったらしい間をおいて、土煙が晴れていく。まず青空が現れ、やがて、五十嵐の屋敷が四人の眼前に広がった。
 ――見る影もなかった。「あっ、」と悲鳴に近い声がなちから漏れた。百年の歴史を持つ、武蔵の鎮守、五十嵐の武家屋敷は、半分が大砲でも食らったみたいに吹き飛んで、黒こげの木片があたりに散らばり、黒煙が上がる。ちろちろと炎の赤がくすぶっていたが、その炎の弱さが、惨劇がもう終わりに近いのだという絶望を知らしめる。
 間に合わなかったのか?という吐息が漏れた。神経が限界まで張りつめて、きりきりときしむ音が耳のなかに聞こえる。それが限界を極めた時、同時に、四人は、背後の存在に気づいた。
遅かったですネ(、、、、、、、)
 爆発したみたいな衝撃だった。ほとんど本能の部分で、ユウヒはなちと亘を突き飛ばした。そしてルウを背後に庇って、倒れ込みそうな勢いで後退する。
 そこに居たのは神父だった。初めて見る。その筈なのに、体中が粟を立て、浮いた脂汗が冷えた。こいつが神父だ。術士の血が告げる。その男は、ひょろっと細くて、黒いコートを着て、白い長い髪をしていた。胸元で十字の銀がひらめき、そして、良くできた彫像のように整った細面が、優しく微笑んでいる。
「Dia's Muire's Pádraig duit――ハジメマシテ」
 優しそうな青年は、にっこりして、恭しく左手を胸元に置いた。なち、亘、そしてユウヒを順繰りに見やって、最後に、五十嵐当主のルウを見る。その目は灰色をしていた。
「アナタが、イガラシ・ルウですネ」
 親しい友人にするみたいに首をかしげて言う。
レギナがお世話になりましタ(、、、、、、、、、、、、、)
 ――バチッ、と白い稲妻がひらめいた。「離れろ!」と誰かが後方で叫び、瞬間に雷鳴を伴って景色が白に割れる。ルウはそこで、まるで催眠にかかっていたような状態から、はっと我に返った。「兄様っ」と声を零して、術の発動元へ視線を巡らせる。
 半壊した屋敷の縁側のところに――瓦礫の下敷きになるみたいにして、五十嵐晴次がうつぶせになっていた。視線だけは鋭く神父を射ぬき、手につがえた術符が発動後の余韻に軋んでいる。が、満身創痍なのは見て取れた。札を持ってない方の腕は奇妙な角度に曲がっているし、こめかみのあたりから血が滲んでいた。
「兄様っ」とルウがすっとんでいった。短く舌打ちをして、ユウヒがなちと亘に手を貸して後退する。
 咳き込む晴次を瓦礫の下から助け起こして、ルウは素早く兄を背中に負った。耳元に聞こえる呼吸が細い。一刻も早く鷹久の助けが要る。こんなになるまで、この人は五十嵐を守っていたんだ。僕らが来るまでじっと耐えていたんだ。そう思った瞬間に、神経がぞっと冷えた。あのやろう、という本能の静かな怒声が耳に響く。
 なんでこんなことするんだよ、と喉の奥で声が潰れた。耳元で「ルウ……」と兄が呻いた。「逃げろっ」と彼が掠れた声で叫ぶのと、白い稲妻を破って、黒い風が眼前に迫ったのはほぼ同時。
 神父、と、胸の奥が呟いた。間に合わない、と絶望的な冷静さで悟る。
 割り入った者がいた。
 頭上で交差させた両腕で、二名当主は神父の拳を受け止めた。みしっ、と骨がきしむ音を聞き、痛覚に打たれる。なんだこいつ、と体中で喚起した。ただの素手。オレと同じ徒手空拳の戦い方。なのに、剣を受けたようなこの衝撃。
「……いい反応をしますネ。お医者さんでしょ、二名のご当主」
 頭上で神父が微笑んでいた。晴次の符術でこれっぽちもダメージを食らっていない。なんだこいつ、ともう一度背筋冷えた。予想を遥かに超えた危険度、未知数。だがユウヒは口の端を持ち上げて不敵に笑って見せた。
「『医家たる者、平民の百倍健全剛体たれ』――! 二名の家訓じゃ、覚えとき!」
 短い気合いとともに受けていた拳を相殺、振り払う。ユウヒは数歩後退したのち、息を長く吐きながら拳闘の構え。二名は医家だが、中でもユウヒは拳闘に長ける。「要は健康オタクなんデスねぇ」と神父が笑いながら同じく数歩引いた。その間にユウヒはじっと考えた。やはり武器もなし。ただの黒衣の青年。髪は白銀で、肌は白。目は灰色だった。ただ、単純に身体能力がヒトのそれじゃない。力、速さ、そしておそらく術力すら持ち合わせがある。それに、我々には毒の異な雰囲気を持っている。おそらく亘と春木はこれにアテられたのだろう。なにしろ、あの五十嵐晴次と対峙して無傷。
 ……分かっている。ここで倒すつもりはない。ただ動きを止めねば、次の段階に進めない……!
「……ここまで来て遅刻かっ、八代のジジイのバカッ!」
 一人で毒づいて、ユウヒは背筋を伸ばした。これから精一杯強がるしかない。
 そんなユウヒと神父の攻防を息を呑んで見ていたなちだが、はっと我に返って、五十嵐兄妹に駆け寄った。
「早く! こっち来て、ひとかたまりになってなきゃ! あんたがぼーっとしてると、先生がやられちゃうでしょっ! 当主なんだから、お前のきょうだいくらいお前で守ってろ!」
 自分よりひょろっと背が高い亘を担いで、なちがルウに噛みついた。
「あんたは三条と、晴次さん守ってて。あたしは先生の後援するっ! いい、あんたにしっかりしてもらわないと困るの。作戦は鷹久にいさんから聞いたでしょっ!? 八代が来るまで耐えるの! あんたの兄さんは耐えたわ! できるでしょ!」
 言っててイライラしてきた。ルウは、兄と自分の家がやられたのでほとんど脳みそが許容を超えているらしく、今にも泣きそうな顔をしている。なちは五十嵐ルウという少女がわからない。男勝りで負けん気の強い、生意気な奴という認識だったのだが、ここまでぐずぐずした面があるとは思わなかった。
 うん、と頷かされたルウは、「ごめんね」と泣きそうな顔をした。
 なちはルウ達を押しやると、目をそらすように持ってきた分厚い本を開いた。「七野なち、助太刀しますっ」と一声上げて、五番目の頁をめくる。手早く祝詞を口上、術符を書き上げ、補助具をありったけ使って、補助呪文をありたけ叫んで、呪力を散開。本の五番目は五十嵐の頁。術符を介した黒魔術。
 標的を神父に絞る。ユウヒがタイミングを計って後退、そのすきに息をつくが、既に満身創痍だ。双肩が激しく上下して、地面に膝をついた状態から起きあがれない。この数秒の攻防で! なちは改めて背筋が冷える。戦闘に関しては、春木と比肩する前線要員のユウヒが!
 くっ、と唇を噛んで、なちは焦って二の句を継いだ。六番目、六東の頁。シキガミを複数喚んで、神父の動きを押さえるようにと特攻させる。本家の術には及ばない。だが、七野のなちだからこそ出来る、多彩な連携の技である。
 が、次の瞬間に、分厚い布を引き裂いたような音があたりにつんざき、攻撃後の土煙がぱっくり割れた。シキガミの媒体に放り投げた術符が紙切れになってあたりを力無く泳ぐ。黒いコートの埃を、丁寧な仕草で払いながら、神父が立っていた。
「あなたが、七野の天才児ですネ。噂に違わぬ博覧強記」
 微笑んだ。こいつ、と頭に血が上って、なちは本の一番目をめくる。一番目は一ノ瀬。九家最高峰の攻撃力を誇る武道の家。が、術を唱える前に視界から神父が消滅した。脊髄が反射的に硬直した瞬間に、うなじのあたりがぞっと冷えた。速い。間に合わない。後ろだ。
 背中に鐘を打たれたような衝撃があって、なちは短い悲鳴を上げて地面に投げ出された。矮躯が一度跳ねて、地面に落ちるのを――防ぐように割り込んだのは二名当主。なちを受け止めて、荒い息をつく。
 ――桁違いだ。正直、冷静に、どう考えても、かなわない。当主が2人して善戦に持っていくことすら出来ない。次元が違う。だが、
「こちとら当主の意地がある……っ! オレの強がりは半端ないんやで!」
 やれることと言ったら、そうやって不敵に笑ってみせることくらいだ。
「こちらも、アナタ方にいなくなってもらうためにはるばる来たノデ。退けませんネェ」
 神父の顔が、初めて、優男の微笑みから、侵攻者の冷徹なそれになった。ユウヒはまずい、とゆっくり後じさる。今までのがこの男にとって小手先だったのは承知している。本気になられたら、それこそ終わりだ。やばい(、、、)。背筋が冷える。向こうの方でルウと亘がなにやら叫ぶのが聞こえる。ダメだ、どうする、間に合わない。なちを。なちだけでもどこかへ。
 神父の素手が死に神の鎌のように青空をすくった。あらゆる考えが中途半端にちぎれて、ユウヒはなちを抱き込んだ。

 ぱちん、と、竹を折ったような気の抜けた音が耳元で聞こえたのはそのとき。ぎゅっとつむっていた目をおそるおそる開ける。徐々に視界が開け、張りつめた神経が一瞬和らいで、脳みその中心のあたりがじんじんした。
 ユウヒの眼前にあったのは、幼く小さな藍色の背中。はっと顔を上げると、ユウヒは自らが今までとは違う空間にあるのを全身で感じた。物理的に居る場所は変わらない。ただ、今は呪力で作られた囲いの中にいる。結界だ。ユウヒを中心に結界が建ち上がっている。その起点にいるのが、藍色の――忍の装束のようなものを着た、幼い男の子。
「……八代当主……八代間(ヤシロ アワイ)……推参しました」
 とても無愛想な声で宣誓した。





もう一話もうすぐかきます
やっと全員そろい踏みかな……合ってるかな……←

八代間(ヤシロ・アワイ)
十歳/男性
「あわい」という名前は決めていたけど、「間」か「淡」のどちらを当てるかという大変どうてもいいことでずっと悩んでました
結局「間」で「あわい」。

 


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プロフィール

林

Author:林
いらっしゃいませ
こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
主にネタメモ、突然ネタメモ

オタクなこととかやおいなこととかきもちわるいこととか普通に言います
やな人は帰ってください

●文芸部特別企画
第一弾
流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
夢十夜

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