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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝番外

 
 全員が桜の頃に集まる場所は、昔から六東の屋敷と相場が決まっていた。というのも、九つある本家のうちで、六東邸の桜が一番見事であるからだ。一ノ瀬は東北、桜は遅いし、二名の本家は禅寺のように堅苦しく桜は無し、三条は仏閣ゆえ厳粛に過ぎ、四家はお家事情、五十嵐はどちらかというと竹林が有名で、七野は人を招くのが苦手、八代は引きこもり、九重も見事だがお祭り騒ぎには不適切。ということで、大抵、名古屋にある六東の屋敷が、術家当主達のお花見会場。
「違うのよ、お水かと思ったの。そしたら、お酒だったの」
 犯人は、ほんなりとそう供述し、意見を曲げてくれない。そばに死体となって転がる三条家当主の姿があり、四家と二名の両当主に遺体検分されている。尋問役は五十嵐当主のルウだったが、十回ほど堂々巡りの聴取をしたところで真相究明をあきらめた。おそらく六東当主は確信犯だが、いい加減どうでもよくなった。
「ばかみたい。というか、あんた達、まだ子供じゃない。お酒なんか呑むのがどうかしてる」
 と、一人で甘酒を啜っているのは七野当主のなち。一人はずれたところで、本を読んでいたけれど、さっき鷹久に連れてこられてやっと同じ敷物の上に座ってくれた。
 当主達がいるのは、六東邸の庭の一角である。そこは見事な庭園で、澄んだ池があり、遊橋があり、その周りを何十という桜の大木が囲んでいる。池のほとりに敷物を敷いて、食べ物を持ってきて、酒や飲み物を並べて、毎度大騒ぎするのが恒例だった。
「あれっ、織里ねえさん、刃音と春木にいさんは?」
「春木は、刃音ちゃんをお迎えに行ったの。もう帰ってくるわよ。あたしの西瓜を貸したげたから」
「ふーん。八代の大爺様は来ないの?」
「そうね、腰でも悪いのかしらねぇ」
 そのとき、ぱたぱたと忙しい足音がして、屋敷の方から少年がお膳を持ってやってきた。織里によく似た栗色の髪の、中世的な顔立ちの男の子。六東長男で、織里の弟の律人という。歳は十三になったばかり。
「おう! リツ坊! 相変わらず、女みたいにひょろっちいのう!」
「違うよォ、先生が体育会系すぎるんだよ。ねー、リッちゃん」
 二名と四家の当主からの声に(ちなみに、既に二人とも若干酔っている)、律人は困ったように微笑んで、ぺこっと頭を下げた。持ってきた追加料理を置こうとして、二人の足下に三条当主の亘の死体を見つけて、びっくりして飛び上がり、混乱してきょろきょろし、泣きそうな顔になって震え始める。「なにこんくらいで泣いてんの、あんた!」と、年下のなちにひっぱたかれるが、確かに白目を剥いて倒れている亘を見て『こんくらい』という物差しは効かないかもしれない。
「大丈夫よ、リツ。ほら、先生と鷹久にいさんが居れば、死人もよみがえると思うの」
「思うの、って、織里ねえさん……」
 天使の微笑みを浮かべる黒幕に、ルウが呆れた声を上げるけれど、律人は健気に理解したようで、実姉の言葉に胸をなで下ろしている。彼が言葉をしゃべれたら、「良かった」と零していたところだと思う。律人は声を持ってないので、しゃべれない。
「あ! そうそう。新しい振り袖を貰ったの。ねぇ、みんなちょっと見て?」
 ぱちんと両手を会わせて、織里がおっとりと言った。それから、何故か律人をどこかへ連れてって、数分の後に戻ってくる。
「じゃーん。見て見て。もー、すっごいかわいいでしょ? ね? ね?」
 織里の手に引かれて、耳まで真っ赤にして、地面を睨みながら連れてこられたのは、どう見ても女物の振り袖を着させられた律人である。桃色の瀟洒な振り袖で、帯は若草、帯締めは金と銀。ご丁寧に、ふわふわの栗色の髪には髪飾りまで差してあった。「……早い……」と、なちが呆然と呟いた。
「私より似合うのよ。この上前の柄なんか、リツにぴったりでしょ?」
 どこかしかツヤツヤした顔で、弟にべたべた張り付いている織里を、ルウは「あーあ」という顔で、なちは着付けの早さに真剣に感心、ユウヒは性転換手術について真面目に検討し始め、鷹久はニヤニヤしながら合いの手を入れて、亘は白目を剥いて死んでいた。
 六東当主の困った性癖として、女装趣味がある。何が困るかというと、よりによって弟を着せ替えてキャッキャするのが好きなのだ。
 あーかわいい、もうかわいい、かわいい、かわいい、かわいい、と、今にも羞恥心で爆発してしまいそうな律人をべたべた触りながら、織里は一人で大喜びしている。今にも絵師を呼んで絵に描かせそうな勢いだ。
 そのとき、ふわり、と一陣の風が吹いて、桜の枝を揺らした。ざらざらと花びらが散って、静かな湖面がやや波立つ。春晴れの空を駆けてきて、ゆっくりと着地したのは、巨大な白虎である。この背中から、一人の青年がひょいと飛び降りた。空色の着物に、腰には日本刀。一ノ瀬当主の春木である。春木は腕のなかに一人の少女を抱えていて、自分が地面に着地すると、その少女を優しく下ろした。端から見たら、二人ともびっくりするほどの美男美女なので、桜吹雪の中でおそろしく絵になった。
 少女の方は、赤い中袖に鈴の髪飾り。鈴の音がしゃんとあたりに響いた。
「刃音!」 
 真っ先にルウが駆け寄って、九重当主の手を取る。刃音は、絵画のように品のいい笑顔を浮かべて、「こんにちは」と首をかしげた。「今年も綺麗だね」。
「うん。刃音も早く、一緒にゴハン食べよ。春木にいさんも!」
「ああ、今行く。織里、スイカをありがとう」
 シキガミを返しにいった春木は、まもなく織里の弟自慢の毒牙に引っかかってしまったようだ。ちなみに一度ひっかかると、ひたすら「かわいいでしょ」に「うん」と答え続ける羽目になる。
 それでこのあと、呑んで騒いでのどんちゃん騒ぎの開始となった。ちなみに刃音が一番酒に強くて、ユウヒとルウ一番酒癖が悪い。春木は良い始めるとへらへら笑い始めるし、亘は息を吹き返さず、鷹久は手酌酒でちびちびやって、ユウヒとルウはケンカを始め、なちはその酔っぱらいのケンカに巻き込まれ、刃音は嵐のような騒ぎのなかで微笑んでいた。
 
 日本に神父の手が迫るたった数ヶ月前の、とても平和な日々。

   




六東律人(ムツアヅマ・リヒト)
13歳・男性
あだ名は「リツ」とか「りっちゃん」。
姉に着せ替え人形にされるのにすごく困っている。
しゃべれない。



八と三の扱いが……いつもひどいかもしれない

 


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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