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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝5

ほんとうに生きるまであと千度死ぬ



 鷹兄、という声と共に巨大な白虎が部屋に突入してきたのは、刃音の様子が変わった直後であった。 ルウ、鷹久、なち、刃音のそれぞれは客間でお茶とお菓子を食べながら適当に話をしていたのだが、刃音が突然口を閉ざしてとおくを睨んだのである。彼女が顔をあげるにしたがって、髪飾りの鈴がリンとはねた。その音が引き金であったかのように、一刹那をおいて轟音が滑り込んだのだ。 障子を勢い良く突き破り、土煙と轟風がルウたちを襲う。目もあけられず、立ってもいられない暴風、思わず顔を庇って身を竦めたルウの視界の端で、ひとり、刃音だけが、目も逸らさずしゃんと立っていた。
「鷹兄!  おるか!  出てこい、急ぎや!」
「ユウヒ先生!? 織里ねえさんも!」
 飛び込んできたのは巨大な白虎である。その背にまたがる少年が荒く声を張っている。ユウヒだ。 なちが声をあげるが、ユウヒはそれには取り合わない様子で、「鷹兄!」と血眼になっている。しかし鷹久は出てこないので、最終的になまはげのような形相をして「鷹久ァアア」と叫びだす始末だ。
 そのとき、なちが「あっ」と声を上げた。それにそばにいたルウが近づく。で、一緒に「ああっ」と声を合わせる。慌てて、
「ちょっと、ユウヒ! 鷹久にいさんが……」
「うるさい! 今はそれより鷹久だっ! アイツどこいった!」
「だから、鷹久にいさんがァ!」
「ユウヒーー!!」
 まさに混乱状態たる客間にルウの大喝が響き渡った。ようやくユウヒが気に留めてルウを向く。

「鷹久にいさん、轢いてるってゆってんの!!」

 あらまぁー、とのんきな声で驚いた様子の織里が白虎を動かしてやると、四家当主の無残な轢死未遂体が露出した。なちが思わず目に涙を浮かべかけてふるふる震えていたくらいだ。
 しかしユウヒのなまはげ状態はそれくらいじゃ収まらず、虎から飛び降りて死体の襟首をつかんでひっぱりあげる始末である。 そんな阿鼻叫喚を鎮めたのはやはり、刃音の一声だった。
「ユウヒ、織里、なにがあったの。刃音に教えて」
 彼女はけして声をあらげない。鈴音のような声なのに、嵐の中に月光を投げ掛けるような静けさと鋭さをもつ。  
 「それが……」と我に返ったユウヒの後ろから「鷹久にいさん!」と飛び出したのは春木である。突然の一ノ瀬当主の登場に、一同目を瞠る。刃音は、小さな声で、「はるき、」と言った。その表情が、今までの大人びた気配を壊して少女のそれを見せたのに気付いたものはない。
「お願いだ、亘を治してやってくれ」 春木が叫んだ。腕のなかに亘がいた。




「はー、無理したねぇー」
 鷹久が亘の胸に手のひらを当てながらつぶやいた。だいぶ消耗しちゃってるよ、と続けて、静かに瞑目する。集中の深みに入ったのだ。 四家家が秀でるのは術力による治癒術である。当主たる鷹久はもちろん希代の治癒者だ。二名家も治癒に長けるがこちらはあくまで医学に基づく。今回の亘のような、精神性のあることを治癒するのは四家の仕事だ。
「……神父が来たって、ほんと? ユウヒ」
「ああ、オレはこの目で見てきたし、さっき正式に一ノ瀬から通信が来たんだと……っていうか、ルウ! お前は『先生』をつけて呼べ『先生』を!」
「やだね!! 誰がユウヒなんかのこと先生って」
「それで、ユウヒ先生」
「ああもう、春兄は『先生』って呼ばんでええとゆっとるやろ!」
 春木はごめん、と頭をちょこっと下げるが、少し後になったらすぐまた『ユウヒ先生』と呼び始めるだろう。春木は人は好いのだが、どこかしら頑固すぎて抜けている部分がある。ルウは一ノ瀬家とあまり交流はない方だが、春木の人柄はよく知る。幼なじみの亘が春木のことを敬愛しているからだ。
「亘は大丈夫なのだろうか」
「平気やろ、鷹兄さんは治癒の専門やど。それより、神父はそないに手強かったんか」
「……ああ、あっという間に屋敷を焼かれた。情けないが、刃を交える暇も無かった」
「今、織里姉さんが、各地に通信のシキガミを出してるんだよね? 兄様も、それを聞いて備えてくださればいいけど……」
「大丈夫さ、ルウ。晴次兄さんは強い術者だからな」
 しかし、一ノ瀬が太刀打ちできなかったのは、術者最大の弱点たるきょうだいを危機にさらされた為だ。今度は警戒を各地に出している。余程で無ければ弱みは取られないが、如何せん相手の能力が未知数である。
「……あんたの、『救国の知識』を使えばいいじゃない」
 と、ぼそりと言ったのは、輪を少し外れたところにいたなちだった。「あんた」の先はルウを差しているようだった。なちの大きな瞳が挑戦的にルウをにらみつけていたからだ。
「あんたには、世界中、あらゆる時代の知識と経験があるんでしょう? もったいぶらないで、それを活用すればいいじゃない、六年前みたいにさ!」
「なち、」
 春木が怪訝な顔で制そうとしたが、なちは細い双肩を怒らせて、より強くルウをにらみつけた。なちの小さな身体から、ほとばしるような怒りが上っているのが分かる。生来勝ち気ななちだが、五十嵐、とりわけルウに対しては敵愾心に近いものを持ち続けているのだ。
「あんたが居るから、七野なんかもう要らないって言われるのよ! この国が今こんなに混乱してるのも、みんなが困ってるのも、あんたとあんたのシキガミのせいなのに……!」
「なちっ!」
 今度こそ大声を張り上げたのはユウヒだった。ユウヒは強い眼光をたたえた双眸でなちの視線に挑み、低い声で、
「過ぎたことをガタガタ言うない。言い過ぎじゃ、頭ァ冷やしてこい」
 見た目はガキ大将と称して遜色ないようなユウヒだが、皆が『先生』と慕うに値する知識とカリスマを持つ。なちはまだ何か言い足そうに唇を曲げて肩を怒らせていたが、春木が静かに小さな手をとって、外へ手を引いていった。なちはおとなしく、春木について行った。
「……七野は永く、オレたち術家関係の書物や術書を扱う一族やからな。知識の分野で五十嵐が出てきたことが気に食わんのやろ」
 その後ろ姿を見つめながら、ユウヒが誰にでもなく呟いた。ルウに対する気の利いた慰めでもないようであった。ルウは横目でユウヒをちらりと一瞥し、ただ黙って頷いた。なちが持つような言い分が、日本中にまだ根強くあるのをルウはよく承知していたし、言われ慣れていると感じている。そりゃあ、傷つかないとまで言うと嘘にはなるが、それでも覚悟のようなものは持っている。
 ルウには、かつて使役していたシキガミから継承した『記憶』がある。そのシキガミが、あらゆる国・あらゆる時代で得た経験と知恵の塊だ。未熟でなんの準備も無いまま、突如の開国という事故に遭った日本を、西洋の食い物とされることから防いだのは、ルウのこの『記憶』と言って過言でない。
 「開国という事故」――その当事者こそ、ルウとそのシキガミでもあるのだけど。
「……記憶の中を探せばね、きっと解決策の説明書がある筈なんだ。どこかの時代のどこかの国が、今の日本とおなじ状況に陥って、どうにかしてくぐりぬけたことがある筈だもの。でも、それじゃだめなんだよ、ユウヒ」
「あァん?」
「ぼくたちはぼくたちにならなきゃだめなんだ」
 ルウが手に入れたのは禁断の書なのだ。これがあれば、どんな困難をも予習できて、あっという間に解決できる。開国の時がそうだった。受けるべき受難を回避できた。あの時は良かったけれど、これからこんなことばかり続けていったら――きっと、なにかとても良くない気がする。ルウはだから、なるべく記憶に蓋をすることにしているのだ。
「……ま、後でなちに謝ってこいよ。なちにも謝らせて、ケンカ両成敗じゃ」
「うん。っていうか、ユウヒも鷹久にいさんにちゃんと謝んなよ」
「分かってるって、うるさいのォ! 治療が終わったらしようと思っちょったんやっ」
 ルウとユウヒは仲が近い。同い年なのもあるし、性格がどことなく似通っているのである。二人とも勝ち気で負けず嫌いだ。だから、年に数度しか会わないのに、ユウヒのことを「先生」と呼ばないのはルウと刃音くらいのものである。
 『ひとつになろう』という刃音の声が耳の奥で聞こえる。飲み込まれてなどやるものか。おとなしく懐柔などされるものか。ああ、ああ、だって今の僕らはこんなにも互いが大事なのに。
 

 空色のシキガミ、ぼくはもう君になにも問いかけやしないだろう。
 でも、君はぼくの知識の中に住んでいる。君は今のこの国をみてどう思うだろうか。
 何も言わないでくれ、空色のシキガミ。ただ沈黙をもって、ぼくらの出す答えを見ていて欲しい。


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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