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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝3



 ――……?
 亘は呼び声に、ふと集中を乱した。ざわりと背中を何かが舐めたような気配がする。何だろう、と思いながらも、慌てて集中を繕い、目的地へ到達することを考える。が、到達を感じれば感じるほどに違和感が強まる。どき、どき、と心臓が気持ち悪さにあえいだ。
 ――ついた、と、必死に結っていた集中の糸を切断し、亘は両目を開ける。するとぱっと視界が開けて、亘は京都の久住院から、東北は陸奥・恐山へ。
 着地は案の定失敗して、都合良く降りられずに、べしゃりと岩だらけの地面に落下する。だがすぐに体勢を戻して――慌てて、景色を確かめた。そして思わず――息を飲み込んだ。
「これは……」
 足が竦んだ。理解が追いつかない。亘は呆然と呟いた。
「春木にいさん……」







 外見の荘厳さもさることながら、もちろん、中身まで作り込まれているのが久住院である。ルウ達が刃音に案内された客間は、見た目こそ質実剛健な和室であったが、よく見れば調度品は一級品の漆塗り、天井は透かし彫りに、襖絵は狩野家で違いないようだ。床の間で焚かれている香が、とても上品であった。屋敷は屋敷でも、私のところとは大違いだ……と、ルウは数々の高級品を眺めながら思う。五十嵐の屋敷は広いがそれだけだ。高貴さは無い。そしてまた、刃音の姿が、幽玄たる和室に映える。
「改めて、集まってくれてありがとう。四家鷹久、五十嵐流雨、七野なち。九重は君たちの足労に厚く報いるでしょう」
 上座に座った刃音は、丁寧に頭を下げた。鷹久、ルウ、なちと膝を並べてすわっていた三人も、軽く礼を返して、改まった挨拶を終える。すると女中がやってきて、それぞれの前に菓子を並べ、茶を点てた。「ひゅー、」と鷹久が満足げににっこりして、
「さすが、おいしそうだねェ、期待してた甲斐があったよ」
「いくらでも食べて。みんなが来るから、おいしいものをいっぱい買ってきたんだよ」
 やりぃ、と年甲斐もなく一番大はしゃぎしている鷹久だが、さすがに手を付ける前に、本題を促した。 「まぁ、食べながら聞きますよ。良いですかねェ」。
「うん、刃音。うちの兄様も心配していたよ。何で突然、集まったの?」
「一ノ瀬の春木にいさんからは何の知らせも無いから、悪いことではないと思いますけど」
 刃音は、ルウとなちの顔を順々に見てから、「うん」と頷いた。
「君たち、『神父』のことを聞いたことがある?」
「『神父』?」
 噛んで含むように鸚鵡返したのはなちで、鷹久とルウは口をつぐんだ。
「……あぁ、最近、よからぬ噂ばかり聞くねェ~」
 一瞬の緊張もすぐに飲み込んで、四家当主はいつもの道化のような顔で首を振った。桃色の落雁にぱくりと食いついて、「うまっ」と目を瞠る。なちがむずむずとその様子を(先をききたそうに)見ていた。
「海の外からやってきた異教徒達のことでしょ? 日本にある古い慣習を駆逐しようって、躍起になってる奴らのことさァ」
「なっ、なにそれ! 部外者のくせに、厚顔も甚だしい!」
 小さな双肩を怒らせて、思わず身を乗り出したのはなちである。乗り出した先にいるのが刃音であることに、我に返った少女は、すごすごと元に戻って、それから苦虫をかみつぶす顔で、握り拳をつくる。なちは幼い。まだ十二だ。それに七野の領地は四国にある。あまり国外の貿易などには関われる機会がないのである。それがゆえんが、代々七野は、概して温厚で、悪く言うなら世間知らずな平和な一族であった。なちが珍しいほど活発なだけなのだ。それにはもちろん、理由があるのだけど。
「神父と各地の寺院で争いが耐えない。刃音達は代々、先祖の霊や土地や山と生きてきた。それを狩ることは、刃音達が阻止しなきゃならない。刃音達はこの国を支える九の血筋なのだから」
 刃音は神妙な面持ちで、なちを諭すように語る。そして、「ねぇ、ルウ」と目して語らぬ五十嵐当主に黒い瞳を向けた。ルウの双肩はびくりと震え、引き締められた唇がさらにかみしめられる。それを見て、刃音が、
「勘違いしないで、ルウ。きみを攻めているんじゃない。そのことはもう終わったんだよ」
 励ましや憐憫の意図はなく、刃音の声には真摯な叱咤があった。「勘違いしないで」という、純粋な諫めである。
「刃音達がしなければならないのは、適応すること。神父達を駆逐しちゃならない。でも刃音達も駆逐されてはならない。今一度、日本に散る九つの血族が一つにならないと、この国は基礎から壊れて駄目になる。だから君たちを呼んだ」
 「もう一度ひとつになろう。かつての神代のように」。りん、と鈴が鳴る。射抜くように真っ直ぐな少女の声と眼光が、もとより剛健な茶室の雰囲気をさらに締めている。幼いなちはもちろん、ルウも、締まる空気に、ごくりと生唾を飲むだけだった。その空気に、春風の如く、適当な相打ちを入れたのはやはり鷹久であった。
「そりゃぁねェ、もちろん。四家は九重のもんだもん。このおっさんでいいなら、いくらでも使ってよ、ご当主」
 白髪の男はそう言って相好を崩し、へらっと笑う。当主の言というのは、その家の家族は無論、根ざす土地の民まで巻き込む影響力を持つ。絶大な権力があるのだ。が、今この男は、その総てを笑いながら九重に預けた。けして投げやりなのでも考え無しなのでもない。それほどの信頼と献身――在る意味で恐ろしいまでの敬虔さ。ルウは、改めて四家当主の力を思い知った。やはりこの人は鷹久にいさんだ――と、身が引き締まる心地がする。
「ありがとう、鷹久。……でも、なちもルウも、刃音は無理に頷かせる気は無いよ。みんなが来てからもう一度改めて話すから、その時また考えて。ね?」
 九重当主の少女は、いくらか優しい表情をつくって、だまりこくるふたりに肩をすくめた。なちはこくっと無言で頷き、ルウは鷹久に肩をたたかれて、しぶしぶと頷く。でも、……でも、とルウははき出すように呟いた。
「レギナのしたこと、は、間違いになんか絶対させないんだ」
 すると、刃音は、いつもの美しい微笑を浮かべて、「そうだね」と親友に呟いた。
「刃音がみんなのことを守ってあげる。君たちは、なにも悪いことなんかしてないんだもの」
 







 日本三大霊場が一と云われるのがここ、陸奥の国恐山である。九重に次ぐ権力と大きさを持つ一ノ瀬がこの地を古くから治めてきた。恐山はむき出しの岩石が転がる、地獄の現世移しである。至る所に魔よけの風車が向きだしの岩肌に突き刺さり、乾いた風にカラリカラリと廻っている。
 一ノ瀬の屋敷は山の裾にある。久住院には及ばないが、立派で格式高い屋敷だ。亘も何度か訪れたことがある。三条に伝わる、空間に関する力を使えばもっと頻繁にこのように訪ねることができるのだろうが、亘は諸事情があってあまり力を使うことを好んでいない。
 それにしたって、一ノ瀬の現当主である春木という青年は、亘の目標たる人物なので、本当は会いに来たかった。優しく強い、一昔前の武士のような雰囲気のある青年だ。
 ――ところが、久しぶりに訪れた恐山は様子が違っていた。一ノ瀬の屋敷の方から、もくもくと煙が上がっているのだ。しかも、亘が着地した山肌は、踏み荒らされ、積み上げられた石は崩され、風車は折り倒されていた。まるで何かに侵略されたかのようだ。
「春木にいさん……!」 
 亘はとにかく駈けだした。一ノ瀬の地である恐山の異常、それに屋敷の火の手。真っ先に当主の安否が気にかかる。
 近くに行けば行くだけ、一ノ瀬の屋敷の状態がひどいのが分かった。火の手は広い屋敷のあちらこちらからぞくぞくとあがり、黒煙がいくつもの細い柱となって空に伸びている。周辺は野次馬や避難してくる家人、消火にあたる男達でごった返していた。とにかく人が入り乱れ、今も戸口から煤だらけの家人たちが這々の体で逃げ出してくる。亘は必死で春木の姿を探した。
「にいさん、春木にいさん!」
 もとより人が多すぎて見つけるのが困難だ。春木は目立つ外見こそしていないけれど、術家の当主同士だから、なんとなく分かる筈で――それがない、つまり、春木はここにはいないのだ。亘は歯ぎしりして、燃える屋敷を見た。それから、彼にしてはあり得ないほどの早さで決断を下し、もう一度駈けだした。目指すは――一ノ瀬の屋敷、その場所。
 ぱっと風が吹くと少年の姿は無い。行き交う人々はふっと消えた少年に気づくこともない。

「う、……あぅ、」
 今日三度目となる落下着地をし、亘は頭をさすった。いい加減術の使いすぎで苦しくなってくる。加えて案の定屋敷の中は煙でひどいことになっていた。少しでも息を吸えば、肺がきりきりと痛む。さっそく涙目になっていた亘に、思いがけず背後から、
「亘!?」
「は、春木にいさん!」
 探し人がそこにいた。黒い癖っ毛を無造作に伸ばした青年で、整えた袴姿――ただし、今は煤だらけだけども――かつての武士を思わせるような、誠実で真摯な顔立ち。術士にしては珍しく、腰に日本刀を差しているのが、一ノ瀬春木その人である。
 春木は腕の中に幼い少女を抱いていた。少女はぐったりとして動く様子がない。恐らく春木の妹である春花だろう。彼女を庇って逃げるのが遅れたのか――亘はなおのこと、悔しいような、苦しいような気持ちが旨を焦がして、とにかく春木に駆け寄った。術家の当主が抱える最大の弱点と最大の闇がきょうだいの欠損だ。当主は死ぬまでそれを背負わねばならない。
「ご無事で! いっ、今、おれが外まで送ります。おれに掴まって、早く!」
「だ……駄目だ、亘! !今ここで力を使うんじゃない、、、、、、、、、、、、、
 思いがけない春木の言葉に、えっ、と声を吐いた瞬間、亘は背筋を何かに舐められたような気がして、思考を止めた。頭から冷気が駆けめぐる――うそだ、何だ、いまおれは炎の中にいる筈なのに――

「……ホウ、君は三条の? 思いがけないところでお会いしマスね」
 
 その挨拶は首もとからかかった。亘の意識がぞっと遠のいたところに、視界の隅で、春木が「亘っ」と叫ぶのを聞く。
「今のがお得意の空間転移って、やつデスか。興味深い。君の家の墓場にある異空間のことと、そこの住人について、近々お伺い立てようと思っていたところデス」
 奇妙な日本語でしゃべるその声は、それだけ言うと、満足気に鼻で笑う気配がした。一言一言に空気を冷やす力がある。普通の人間じゃない。術士の独特の雰囲気、それでいてどこか異質な――どこまでも異質なその気配。まるで蛇に喉を舐められているようだ。少し動けば、毒牙が喉に立つ気がする。指の一つも動かせない。
「……フム、でも、当主ふたりとなれば、少々面倒デスねェ。今日は退散しましょうカ」
 蛇はそう言って、死に神の鎌を亘ののど元からはずした。亘は自分の身体を絡め取っていた異質なる気配から解放されて、思わず膝をつく。すかさず春木が庇うように抱き寄せてくれるのが分かったが、その間も身体は弛緩したきりだ。
「では、また。ご機嫌ヨウ」
 ――蛇は友人の元から去るような気軽い声を残して、あんまりにも簡単にその気配を消した。総ての詮索は間に合わず、悉くの反撃は思いつく暇も無かった。亘は今更のようにどっと背中に汗が噴くのを感じ、ようやく炎の気配を思い知る。亘を支える春木の手が、ぎゅっと力のこもり、それから小さく「くそ、」という囁きが漏れた。
「亘、大丈夫か。すまない、守ってやれなんだ」
「だい、じょうぶ、です。春木にいさん、今、助けますから、もう一度おれに掴まって」
「バカを言え! そんな身体で空間を曲げるっていうのか、心臓が壊れるぞ」
「へ、平気です。おれだって、当主なんだもの」
 まだ何か言いたげな春木を黙らせるようにして、亘は気を練った。すぐに風が亘の集まる。空間の編み目を読んで、糸と糸の隙間に指を入れる心象――少年はクッと息を呑んだ。そして見つけた穴に飛び込んでいく。春木の手を離さない。
 生命力を削るように――実際息も止めて集中の糸をよりあわせ、ぱっと視界が開けた時、爽やかな外気が頬を切る。外に出た。
 ……それを感じた瞬間に張りつめていた意識がぷちんととぎれて、亘の視界は暗転した。
 落下する気配がする。またうまく地面の上に道を造れなかったんだ――最後に春木が耳元で名を呼び、抱きすくめてくれたのを感じたが、それまでだった。亘は煤くさい味を口の中に感じながら意識を手放した。




イー・アル・カンフー! 林です
亘の成長記録になってきたようなそんな第三弾
やる気が失せないうちに書きためようと思います。

一ノ瀬春木(いちのせ・はるき)
二十歳・男性
超いい人。なんか武士(?)。人を疑わないので、鷹久とかによく騙される。爪の垢を煎じて売ってもいいくらい出来た人。でも究極の味覚音痴でみそ汁に砂糖入れて平気で食べたりする

一ノ瀬春花(いちのせ・はるか)
10才・女性
春木の妹。肺の機能に障害があって、伏せがち。

エセ日本語の人
?才・男性
たぶんまたそのうち出てくる


うおー次は二名家を出すぞ!たぶん! 林でした
  


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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第二弾(完走!09'12)
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