Featuring

毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
04


スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ハルシオン・ブルー外伝2



 弾劾の声よ、どうか天まで届け








 九連の鳥居をくぐると、今度は巨大な本堂が出現する。山を切り開いて建立したものなので、あたりをぐるりと岩壁にかこわれ、その上には竹林が茂る。今は秋の頃なので、目の覚めるような赤がちらほらと覗いていた。紅葉があるようだ。
 久住の本堂の開元は平安とも、さらに飛鳥の頃とも、謂われが多くて判別が出来ないらしい。もしかしたら出雲大社と同じくらい(大社が残っていればの話)の歴史を持つとも聞いたことがある。とにかく、古い。だが、うらぶれた様子は微塵もなく、経た時は老朽ではなく威厳をその寺院にもたらしていた。深い色をした木目のつくり、天井の梁の向こうにはどこまでもくらがりがあって、ぼんやりと天井守りの符の白が見える。苔むした石畳、風雨に削られた灯籠、茅葺きの屋根、無縁仏の石碑達。とにかくそこは、重厚な歴史の層にすっぽり覆われている。やおら手を伸ばしたら、ふいに、どこまでも深く濃い暗がりに吸い込まれていきそうな――そんな空気の密度。

「元気かなぁ」
「九重のご当主のことかい」
「でも……こんな時期におれたちを集めたんだから、なんか、あったのかも」
「九重に何かあったなら、一ノ瀬が一番最初に全部察知している筈だわ」
 そんな会話をしながら。ルウ、亘、鷹久に、なちの四人が鳥居をくぐり本堂に出た時、その正面に一人の人影が待っていた。四人の姿を見ると、待ち人はにっこりと微笑み、「いらっしゃい」と鈴のような声で告げる。
 ルウはその姿に「あっ」と声を上げて、誰より早く待ち人のところへ駆けだした。勢いにまかせて、色白の両手をぎゅっと握って、歓喜に満ちた声で、
刃音はね! ひさしぶり!」
「久しぶり、流雨」
 待ち人の少女はゆっくりと、完璧に整った微笑をこしらえた。短く整えた髪に添えられた髪飾りの鈴が、ちりん、と鳴るのが、ルウの耳朶を打つ。嬉しくて、こくこくと何度も頷いて、温度の低い、白魚のような少女の手のひらをもう一度強く握った。そうこうしていると、残りの三人も少女のもとへ着く。ふたたび、ちりん、と鈴を鳴らして、少女はルウの背中ごしの三人を一人ずつ見やった。
「亘、鷹久、なち」
 それぞれ、亘は唇を結んで首を竦め、鷹久は微笑して会釈、なちは緊張した面持ちでぺこっと頭を下げる。
「遠路ご苦労様。来てくれて嬉しいよ」
 そう続けて、少女――九重刃音ここのえはねは、再び人形のように完璧な笑みを浮かべるのであった。
 
 全体的に、まだ幼く、子供の域を脱していないというのに、艶の類の美しさを持つ少女である。短めに整えた髪は烏の濡れ羽色、金色の鈴飾りがよく映えた。いつも赤地の中袖と袴姿で、日本人形にそのまま息を吹き込んだかのような可憐な容姿。それが九重刃音――九重家現当主にして、日本の術家を統べる者。

「ご当主も息災そうで何より」
 鷹久がへらりと笑いながら肩をすくめた。後ろでなちが恐縮したようにだんまりを決め込んでいる。亘に至っては、蛇の前の蛙のように緊張で死にそうな顔をしていた。ルウばかりが刃音の手を握りしめて離さない。というのも、刃音は、ルウが――正確には、ルウとそのシキガミが――術家の何百年かけて作り上げたある装置を崩壊させた事件の折り、一番にルウを赦したその人である。日本中の術家が五十嵐を攻め詰った。ルウもそれは仕様のない責め苦だと、総て受けるつもりだったのだが、何より術家の頂点に立つ刃音がルウを赦したのである。これほど絶大な示威効果は他になかった。
 もとより、ルウは何かと世話を妬いてくれる、このしっかり者の少女のことがしても好きなのである。唯一歳の近い、同性の友達でもある。
「ルウ、晴次は元気?」
「うん、とても。連れて来られなかったのが、残念だよ」
「いいよ。こちらまで来るのは、彼は大変でしょう。今度、刃音の方から行くね」
 と、微笑む。刃音は微笑むと、ぞくりとするほど美しい。「ところで、」と、なちがおずおずと切り出した。
「此度の招集は、どういう旨なのですか?」
「あぁ……そうだね。立ち話も何だから、みんな上がって。お茶の用意がしてあるんだ」
 刃音は、ルウの手を引いたまま、奥の本堂を指さした。臙脂の振り袖から少しだけのぞく指先は、なにか宝物のように白く細い。三人が続こうとしたところで、ふいに、「亘」と刃音が、終始無言で恐縮していた影のような少年に優しい視線を投げた。不意の指名に、亘は死の宣告でも受けたようにびっくりした。
「疲れているところ本当に悪いのだけれど、一ノ瀬の方まで飛んで、彼らを連れてきてくれないかな? 春木が、調子が悪いみたいなんだ。ごめんね」
「い、いいえ、滅相もないです。了解です、御当主」
 少年はおっかなびっくりといった様子で頷いて、いそいそと皆から距離を取った。ルウの方をちらっと見て、手をひらひらと振るので、ルウも返す。「いってらっしゃい」と声をかけると、やっと亘がいつものようにおっとりと微笑んだ。
 では、ちょっといってきます、と頭を下げて、亘は何か文言を口腔で呟くと、風がわっと吹いてきて、竹がざわめいた。静まる頃には、亘の姿は無い。鷹久が「相変わらず、役得だねェ、三条はさァ」と楽しそうに囁いていた。
 
 亘が去ったあとの、ひらひらと舞う竹の葉を見ながら、ルウはぼんやりと刃音の手を握って立っていた。今ここには、四と五と七と九。あと残るは五人の当主。







五十嵐晴次(いがらし・せいじ)
23才・男性
ルウの兄。両脚が無い。文武両道の万能だが片づけは出来ない。

九重刃音(ここのえ・はね)
17才・女性
九重当主で、九術士家のてっぺんに立つ。お人形さんみたいに完璧な容姿をしている。

 


Comments

Leave a Comment


Body

プロフィール

林

Author:林
いらっしゃいませ
こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
主にネタメモ、突然ネタメモ

オタクなこととかやおいなこととかきもちわるいこととか普通に言います
やな人は帰ってください

●文芸部特別企画
第一弾
流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
夢十夜

カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
手書きブログ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。