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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ハルシオン・ブルー外伝







 知らないわけがない。私たちはずっとそうして、歪と対決して生きてきたのだから。













「京都へ?」
 私の頓狂な声にも、兄は白眉一つ動かさずに、冷静な瞳で頷いた。冬の湖岸のように静かで理知的な黒目が、書物から私の方へ、つい、と動く。戸口でかしこまっていた私は、もう一度居住まいを正して、膝を揃えて肩を縮めた。
「先ほど、九重ココノエから、全国の術家へ伝達が来た。一から八の家の当主は、近日中に九重の屋敷へ来るようにと」
「こんな時期はずれにですか!? だって九重に行くのは、いつも、お正月の挨拶の時だけで……」
「詳細は分からない。火急なのかもしれぬ――兎も角も、九重の招集を断るわけにはいくまい。先ほど、三条に連絡をとった。彼らに送っていって貰いなさい」
 書見台に向かっていた兄はそういうと、胸元から紙片を取り出した。例の九重からの召集令をしたためたものらしい。入室の断りを入れてから、敷居を跨いだ。足の裏に、畳敷きのひんやりとした感触が心地よい。兄の部屋は、こぢんまりとした和室で、あちらこちらの片隅に帳簿や本や令状らしい書類が積み重ねてあったり散らばったりしている。奥の方に小さな机があって、たいてい兄はそこについて仕事をしているのである。
 兄から受け取った半紙には、確かに九重からの招集の旨が書かれていた。署名は現九重当主のもので間違いない。内容はやっぱり、「至急招集されたし」、以上。ううん、と私は首をひねったが、確か兄の言うように、とにもかくにも行ってみるしかない。それに、九重当主に会いにいくのも久しぶりだ、という、正直なところの楽しみな感じもないわけではなくて、私はその手紙を丁寧に畳んで胸元に仕舞った。
 じゃ、すぐに支度を――というところで、突然、部屋の障子戸が、がたがたっと騒いだ。えっ、と思っている間に、部屋の振動はガタガタを経て、グラグラになり、最終的にはゴゴゴゴ、という地響きになった。書物がばさばさと崩れる音がする。
「こ、これっ、まさか……!!」
「……下手くそめ、、、、、
 と、兄が呟いた丁度その瞬間。障子戸の向こうで、何かが落下する轟音が響いた。衝撃で、障子戸は外れてばたんばたんと倒れ込む。咄嗟に兄を庇った私だけど、もうもうと土埃が上がって、思わず咳き込んでしまった。それから、轟音に紛れて、「ギャァッ、、、、」という悲鳴がかすかに聞こえる。――兄の方を見ると、崩れた書物の山を一瞥したのちに、おもむろに袂から札を取り出していた。私が昔、なにか失態をした時に使われていた「おしおき術札」である(名前は私がかってにつけた)。兄特性の呪力がこめられていて、けっこう痛い。
 障子戸がなくなった向こうの景色は、まだ土埃がもうもうと立っていたが、それも収まれば、五十嵐の屋敷の庭が広がる。だだっぴろい砂敷きの庭で、その向こうには街と海が見える。五十嵐の屋敷は街の高台の上にあるのだ。
 ――で、土煙の中には、背中からひっくりかえった少年が涙目を浮かべて頭をさすっていた。強打したものと思われる。
「ワタル!」
 私の声に、少年はハッとなってから、ごまかすような笑いを顔に張り付けた。「やぁ」と弱々しく右手を挙げた三条亘だが、次の瞬間に兄の術符を投げつけられて、訳も分からないままに、「ギャァッ」と一声上げて感電した。
 ――私のより痛いように創ってあると思う。部屋と大事な本を土埃だらけにされた兄の怒りの様を見た私は、苦笑もさながら、ぴくぴくしている『迎え人』を見ていた。







 日本には各地に九つの術士の家がある。それぞれの家の者は悉く鬼道に長け、陰陽術を操り、歴史の裏で暗躍を続けてきた。それぞれ、一ノ瀬イチノセ 二名ツイナ三条サンジョウ四家アミイエ五十嵐イガラシ六東ムツアズマ七野ヒツノ八代ヤシロ。そしてこの八つを統括するのが京都の九重ココノエ家となっている。
 九つの家には必ず、絶大な力を持つ当主が生まれる。その当主の強さゆえんは、きょうだいの身体の欠損として現れるもので、つまり、術士の家に生まれる子はかならずきょうだいであり、当主となる子以外の子は五体不満足で、それと引き替えて当主は力を持って生まれるということだ。
 五十嵐ルウが当主を務める五十嵐家も例に漏れない。ルウの兄である晴次には両脚が無い。
 ――それから、それぞれの家には個性のようなものがあって、たとえば、ルウの生まれた五十嵐家は、符を使った陰陽術に長ける。といっても、ルウは当主のくせに不得手であり、兄の晴次がそのの第一人者である。
 で、五十嵐の領地のお隣にあたる、尾張のあたりを統べる三条家が得意とするのは、空間をひんまげて、『道』を創るという移動術なのだけど、

「すみません、すみません、すみません、晴次さん。すぐに掃除します、しますので、どうかご勘弁の程を! ビリッてくるのは、どうかもうご容赦をー!」
 自分の落下地点である地面に額をこすりつけて土下座しながら、少年は泣き声を張り上げている。晴次はそれを不満そうにじいっと見ていたが、やがて「……来るのが早い」と無感情な声で告げた。
「なにももてなしの準備が出来ていない。三条の当主、そのような場所に傅かれず、上がられると良い」
「はっ、……はい! ありがというございます!」
 彼にしっぽがあったら、確実に大振りに振れていただろうな、と思いながら、ルウは、少年のところへ走り寄った。お隣と言っても、国をいくつも隔てているので、なかなか会えたものではない。でも三条の当主――三条亘とは、ずっと昔から一番仲良しなのだ。会えるのは嬉しい。
「ワタル! 元気そうだね! 兄様に言われて迎えにきてくれたんでしょう!?」
「あ、う、うん、ルウ。また……きれいになって……」
 へらへらと笑う亘は、泥だらけの顔をこすりながら、あせあせと髪型を整えていた。でも、顔の泥はこすればこするほど広がっていたし、彼の髪の毛は生来からものすごい癖っ毛なので、撫で付けても次から次へと跳ね上がって、あんまり効果が無い。
 亘はルウより二つ年下で、十六才の男の子である。尾張を管轄する三条家の当主で、ひょろひょろと背ばかりが高く、要領も器量も悪いのだけど、おっとりしていて気が優しい。昔、ルウがまだ幼少の頃、そのころはまだ兄と折り合いをつけるのが下手くそで、術のコツを掴むのも下手くそで、泣きべそばかりかいていたのだが、そういう時に、困ったような顔をしながら、隣で背中を撫でてくれていたのが亘だった。特に気の利いた台詞の一つもなかったけれど、何時間でもそばに居てくれたものである。
「ワタルのところにもやっぱり、九重から連絡が来たんでしょ? 何か知ってる?」
「あ、ううん……何も聞いてないんだよ。至急集まって、としか。たぶんどこの家も一緒だと思うよ。鷹久にいさんは、なちさんと一緒に来るって言ってた」
 どこも一緒のようだ。亘の袴の埃を払ってやりながら、ルウは小さく嘆息した。いよいよ行ってみるしかない。
 亘とルウで、手早く晴次の部屋を掃除して(せっかくだから、お茶を出そうか、と言ったら、二人に固辞された)、それからすぐに京都に向かうことになった。
 前述したように三条は空間を統べる。亘はちょっと操作が下手なので、先刻のように上手く着地ができないのだけども、ここ、武蔵の国から京都へと空間を超越して移動ができる――のが三条の真骨頂なのである。
 しっかり支度をして、髪の毛も梳いて、着物の帯も締め直して、ルウは亘と一緒に庭に立つ。障子を開けて見送ってくれる兄に、「行って参ります」と頭を下げた。晴次は一度頷いてから、「詳細が分かれば連絡をするように」と念を押した。それから、「――では道中、お気を付けて、三条の当主」と半眼で亘を睨んだ。
 びくびく震えながら、十回くらい頷いた亘は、決したように深呼吸をする。離れないようにと、ルウが亘の腕をしっかり掴むと、余計にぶるぶる震え出すのが心配である。
 ――行きます、と小さく亘が呟いて、ふわっと暖かい風が頬を撫でたのを最後に、ルウはものすごい強風の中へと飲み込まれていった。
















 ――『俺の主はすごいんだぞ』。
 いつも、恥も外聞も無くしれっと言うものだから、僕はものすごく恥ずかしい思いをしたのを覚えている。ことあるごとに彼はそう言って、海色の瞳で僕を見つめた。空色の髪の毛がふわふわとなびいていた。
 記憶の中にある青い残像。五月の空。僕がまだ幼かった時のこと。僕と青いシキガミの短い初夏。静かな激情、崩壊と新生。崩れる背中、涙でぼろぼろになった彼の顔。
 奇跡のような、あの夏の日。もう二度とは返らない、僕のシキガミの温度が、僕の心のどこかを、不確定な速度で追いつめる。










 ――覚悟は一応していたが、ぱっ、と風が止んで、我に返った時に見た光景は空だった。
 すぐ隣で、「ヒッ」と息を呑む声がし、これは、と思った瞬間に、二人は落下を始めた。あっという間に景色がぐちゃぐちゃになり、次の瞬間に――しこたま腰を地面にたたきつける。
 あまりの衝撃に脳みそが白く弾けて、視界が白濁した。空中に出るという予測はしていたのに、受け身をとるヒマもなかった。兄様だったら素早く術符でも使ったのだろうな、と腰をさすりながら、隣でのびている亘を揺する。こういう状況におちいる回数は、術を使う当人である亘のほうが多いのだろうに、彼は毎回律儀に着地に失敗して重傷を負っている気がする。
「ワタルっ、ワタル! ついたよ、起きて! ここ、九重の屋敷で合ってるんだよね!?」
 ところが亘は、ううん、と唸るばかりで反応しない。しょうがないなと嘆息して、ルウは砂埃が晴れ始めたあたりをぐるっと見回した。
 恐ろしく広い参道であった。横は樹木を一本倒しても平気なほどに広く、石造りで瓦を葺いた塀に両側を囲われている。白い砂利がひかれ、目をこらしたずっとずっと先に、真っ赤な九連の鳥居が見えた。両脇の塀の向こうにはそれぞれ竹林が広がっており、耳を澄ませば恐ろしく静謐であった。時折、竹のさざめきが湧いたように起こり、遠くでひぐらしが鳴いている。違いなく、九重の屋敷――久住院である。
 圧倒されるほどの神聖な気配、飲み込まれそうな静謐、立ちつくすほどの広大さ――久住院くじゅういんは京都南部ある巨大な寺院である。九重一族が代々の主を務めてきた。かつて、京に都があった時代は、この久住院が鬼門を守った。九連の鳥居がそれを示している。
 毎年お正月にはここを訪れているというのに、ルウはしばらく圧倒されて呆けていた。亘が起き始めて身じろぎしなければ、もう少しながく、浮き世場慣れした空気に当てられていたと思う。
「うぅ……ルウ……おれ……またしくじっちゃって……」
「平気よ、これくらい! どうってことない! それより、ホラ、ちゃんと九重に着いてるよ、しゃんとして! これから当主に挨拶に――」
 しなびている亘を引きずり起こそうとした時だ。「あれェ?」とのんきな声が、ルウの背中にかかった。
「そこにいるのは、ルウちゃんにワタルくんじゃないの。あらま、おっきくなってェ~」
「鷹久にいさん! 仮にも当主にその呼び方は何ですか! 仮にも!」
 広い参道を、二人連れが歩いてきた。真っ白い地面と、からっと晴れた空を背景に立っていたのは、背の高い白髪の男と、黒髪を高いところで結い上げた少女である。
 白髪の男は、眉目秀麗であるがどこか野暮ったく、だらしなく紫苑の羽織を着崩し、斜に立っていた。年の頃は二十半ばだが、あんまりに泰然とした雰囲気が、彼をそれ以上に見せている。それを彼自身もよく分かっているのか、一人称を「おっさん」として憚らない。彼は四家鷹久あみいえたかひさ。四家家の現当主である。
 その隣にいる小柄な少女は、名を七野ひつのなち。黒髪を結い上げて、彼女がくるくると動くたびに、髪の房が尾っぽのように揺れるのが、活発な彼女らしい。歳は十二で、やはり七野家の当主である。
 二人とも会うのは正月以来であった。ルウは慌てて亘を引っ張り上げて頭を下げた。
「先についてたんだ、二人とも! 久しぶりです!」
「あっ、おっ、お久しぶりです。鷹久にいさん、なちさん」
 鷹久は「久しぶりィ」と手をひらひらと振り、なちにはぷいっと知らん顔をされた。変わりないようだ。
「その様子だと、またワタルくんが落下したみたいだねェ。大丈夫? 怪我があるなら治したげるけど」
「平気です。それより、鷹久さん達はこの招集について何か聞きました?」
「聞いてないわ。あたし達も今さっき着いたの。砂埃みまれにならない方法でね」
 と、なちが噛みつきそうな声で突っかかる。それ自体はいつものことなので気にならないのだが、亘の方は、年下の少女に「スミマセンスミマセン」とぺこぺこ頭を下げるきりである。
「ボク達もちょうどこれから本堂に向かうところだったんだよ。他の家の人達はまだ着いていないだろうし、先に挨拶を済ませちゃおう。本家だからきっとおいしいお菓子とお茶が出るよォ~」
 と、白髪の男は羽織の袖をヒラヒラさせて声を弾ませる。なちに似せて言わせるならば、「それでも当主か」という風体の彼だが、年長者であるし、今の状況を知るにはそれが最善である。三人は四家の当主に従うことにし、あまりにも広い参道を並んで歩き始めた。
 久住院はあたりを竹林に囲まれ、周囲と隔絶されている。どこか音も遠い。まるで異世界に入り込んだかのような荘厳さが、知れずに肌から身体へしみこんで、ふっと気を抜けばどこかへ落ちていきそうだ。遠くで聞こえるひぐらしの声ばかりが、足を地面に縫ってくれる。
 竹のさざめきのように、ざわざわと予感に波立つ胸中を抱えながら、ルウは九つ連なりの鳥居へ入っていった。




 



ミルクティーにはまってます。 林です。
突然ネタメモが飛び出す^^ 気が向いたら続きます、たぶん。
昔書いた「ハルシオン・ブルー」外伝。本編から数年後くらいの話で(適当)
一応九人全員出したいけど……ヤル気が続けば……

ちなみに

五十嵐ルウ
18才・女
しっかりしてるようでしてない女の子。おてんばで男勝り。
好きな人は兄の晴次。きらいなものはゲジゲジな虫と生意気なシキガミ


三条亘(さんじょう・わたる)
16才・男
チワワ。最近ルウにどこでもドア扱いされて困ってる。




四家鷹久(あみいえ・たかひさ)
26才・男
おっさん。精力に欠ける二十代。
イケメンなのに女子といるとデフォルトで犯罪くさくなるのが不思議。


七野なち(ひつの・なち)
12才・女
天才少女。ものすごい量の術を暗記している。鷹久が好きで、他は生ゴミでいいと思っている。
 


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Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
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●文芸部特別企画
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流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
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