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毎日の出来事を何となく綴る日記。

 
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ねむい


ネタメモ……いいえケフィアです(だまれ^^






 ――水色の記憶。

 







 ハルシオン・ブルー


「ありえない……」
 
 五十嵐ルウは呆然と呟いた。手元にはありえない量の蔵書が混沌と散らばっていた。そこここで棚から崩れた本は山になり峰になり、今も二次災害として奥の方でばさばさっと雪崩が起きる音がする。五十嵐三百年の歴史の中で先人が培ってきた知識たる蔵書の量は半端でない。おさらくこのあたりの国でも比肩しうる家はない筈だ。
 そしてその積み上がりが瓦解した時の禍害というのも半端ない。これもなにも、先日の地震が悪い。自然災害なために報復できないのがまたタチが悪い。呪術を得意とする兄に頼みこんで日本国に存在する鯰という鯰を呪って貰おうとしたが一蹴された。
 かくして五十嵐ルウは、新たな生命体でも生み出しそうに混沌たる五十嵐家の倉を片づけねばならなくなった。
 倉の中の空気は最悪で、今ももうもうとホコリが立ちこめていた。湿気抜き用の小さな天窓があるだけで通気設備はまるでない旧式の倉である。せめて戸を開け放つくらいしか出来ない。
 また、倉のものは先祖伝来した、五十嵐の術士のみが扱って良いとされる機密が多い。というわけで手伝いの者を呼べることもない。兄はこういうことが出来ないし、結局五十嵐家現当主のルウが駆り出されるしかなかった。
「もぉお! 本の海だよこれじゃあ……。しかも居るのは紙魚ばっか」
 長い黒髪を束ね上げ、装束の袖をたくしあげながらルウは嘆いた。もちろん誰も慰めてくれなかった。
「……とりあえず、いったん、外に出そう」
 ウンと頷き、ルウは足下にころがるものから戸外へと運び出し始めた。あの間にも白い煙が襲う。手ぬぐいで鼻と口を覆っても涙とくしゃみが止まらない。まさかこのぐしゃぐしゃな顔をして一分おきにしようもない悪態をつく少女が、この国で最も高名な術士だと誰が思うだろうか。
 
 かつて、日本は外に対して全ての門戸を閉じていた。列強の侵入を恐れた国家は、この国にかつてより存在していた九つの術士血族に、日本をすっぽり囲う『壁』を作るよう命じた。壁の名を『大結界』。勅命より百五十年かけて全国の術士達が作り上げてきた大結界だが、しかし、今より八年前にとある少女によって粉々に破壊された。
 少女は名を五十嵐ルウ。九つの術士血族がひとつ、五十嵐家の当主である。
 無論少女は国賊逆賊と国じゅうから罵られ、また、見果てぬ列強からの支配に世間はおののいた。しかし少女は国賊にならなかった。列強は攻めてこなかった。

「しかもこのあたりの本……そういえば昔にレギナと漁ったあたりじゃんか! ここだけ崩れが激しいのはあいつの所為だぁー、もう!」

 ――なぜなら、五十嵐ルウが、この国になく希求していたもの、つまり大国の情報を全て手に入れた為である。
 情報とは、そのまま国家情勢であったり、世界地図であったり、また、日本が知り得なかった貿易の際の知恵であり、また、世界史だった。それは全て開国の際の弱みを払拭する武器に値した。つまり五十嵐ルウの知識がある限りにおいて、日本は列国と対等の貿易が出来た。
 五十嵐ルウが如何様にしてその知識を手に入れたかは、あまり知られていない。結果論として彼女は日本の開国を救ったというだけだ。
 だが、日本の術士一族は知っている。
 五十嵐ルウが召喚した異端のシキガミ、レギナ・ユノ・ヴァン・スヴェントヴィト・ヴァッサーのことを。

「……絶対レギナがあの後テキトーに片づけたんだ……だからこんなに崩れたんだ……あの生臭シキガミィイ」
 ブツブツ一人で不毛な文句を呟きながら、ルウは一応せっせと働いていた。あらかたを外へ出し終え、ぞうきんで板目の床を拭き、適当に分類した本を棚へ返していく。
 ――水色のシキガミと出会ったのはこの倉の中だった。そして最後に彼とこの倉に入ったのは、確か兄の誕生日の折りだった。兄への誕生日祝いにあげる本を探していた時だ。確かアイツに、『食事に誘えばイチコロ、そこで贈り物すればトドメ』とわけのわからないことを教授されてえらい目にあった時だ。
 彼は往々にして嫌味ったらしく、慇懃で、不作法この上なかった。今でもあのしてやったりというニヤニヤを思い出すだけで虫酸が奔る。むしゃくしゃしてきて、ルウはそばの本を手荒く引き寄せた。すると、それが悪かったのだろう、手元の本の山が崩れる。
 もくもく上がる埃に咳き込みながら、ルウは焦って足下に落ちた本を拾い上げ始めた。
(……なんで気付いてあげられなかったんだろう)
 何冊かを腕の中にかかえこんで、さっさと戸外へ退散しようとした時、ふとルウは手元の本に気付いた。
(あいつはなんで、なんにも言ってくれなかったんだろう)
 それは表紙が紅色をした上質な綴じ本だった。丁寧に扱われたのか、未だに型くずれはしていない。けれども如何せん経た年月が長すぎたらしく、表紙の題字は読みとれなかった。まるで見つけられるのを待っていたかのようにそれは、静かで熱く滾るような赤が湛えられていた。持つと妙な熱があるような気がした。
 ルウは呆然として、腕の中の本を落とし、その紅に見入った。
 ……そう、かつて。八年前に、五十嵐ルウが、レギナ・ユノ・ヴァン・スヴェントヴィト・ヴァッサーを召喚せしめた、あの紅い本。
 あの後何度も何度も捜しても、けして見つかることはなかった紅い本。何の気まぐれでここにあるのか分からない。もしかしたらよく似た別物かもしれない。でもルウは、それを手に取った。瞬間に、水色の記憶がよみがえる。五月晴れの日に此処で出会ったシキガミのこと。水色の猫っ毛、深い蒼色の瞳をした、異人のシキガミ。
 二人で下った坂道。けんかした夜。レギナの意地悪な笑みと、しょうがないなぁという微笑み。
 レギナが大結界を破壊していった時の、震えるような小さな背中。ルウに彼の知識と経験を預けて去っていった時の申し訳なさそうな顔。
「レギナ……」
 紅い本を抱きしめる。わからない。もう八年、八年になって、新しい時代を迎えて、もう全て癒えたと――いいや、もとから傷ついてなんかいなかったと、彼も私も全てに満足した結果だったと思っていたのに、まだ胸の内はこんなに、未熟で、苦しかった。
「レギナ……!!」
 レギナは消えた。大結界を破壊し、彼がいた世界へ還った。大結界が異質化し、日本を囲む地獄の檻となった遠い未来からやってきた青年は、たぶん、もといた世界で、もう迷うことなく、最期を迎えたのだろう。
 でも、レギナ。でもね、レギナ。まだ言いたいことがたくさんあったんだ、ほんとうは。言えなかったことばかりだったんだよ。
「『生々流転、血流漂株』!  『英風』…………『虎嘯風生』! レギナ・ユノ・ヴァン・スヴェントヴィト・ヴァッサー!!」
 
 ふいに消えた鼓動。震える喉。凍る呼吸。

 ……もちろん、なにも、起きなかった。
 ただシンと湿った静寂に沈む倉庫の気配が、ルウの汗ばんだ背中を舐めた。それだけだった。
 割の合わない空白感に少しうんざりして、それからよくわからない悔しさに唇をかみ、そしてすこしだけ自分を嗤った。
 手早く落とした本を拾い集める。紅い本は脇へのかしておいた。
 もう一度倉を見渡してから、もう一度自分を嗤った。
 あけはなった戸をくぐる。春風がふんわり頬を撫でた。かみしめた唇に風が当たると、そこに少しだけ乾きを感じた。顔をうつむけ、少しだけ息を止めないと、なにかの堰を切ってしまいそうで恐ろしいことが、妙に悔しかった。
 見事な春晴れの日である。五十嵐の庭の木々は青々と茂り、いささか強い風もまた、春の訪れを感ずるに足る。
 ルウはふっと短く息を吐いてから、ゆっくりと面を上げた。
 強い風だ。小波のように木々がざわめいた。その小波の声を数えるように、ぼんやりと木々を眺める背中が、いつか海に対峙し消えていった彼のものと重なったのは――何故だったのだろう。
 息を呑む。身体が強ばる。視界が狭まる。ルウはすがるように腕の中の本を抱きしめた。
 同じような輪郭があった。背を向けて立っていた。ふわふわの猫っ毛、束ねられた襟足が尾っぽのように風に靡く。全体的に線が細い。あるいはその細い足をふんばるような立ち方、あるいは顎を上げて遠くを見る様、あるいはその消え入りそうな背中か――あるいはさっきの、倉の中でのたわいない古傷の痛み。
「レギ……ナ……?」
 その言葉を発すると同時に自分の心臓がごとんと鳴るのを聞いた。飲み込んだ唾は重く固い。ひたいの、生え際のあたりに汗を感じた。
 これに気付いたのか否かはわからぬが、『彼』の背中がぴくりと反応してから、ゆっくりとこちらを向いた。
 目が、――合う。
 蒼い瞳の残像をみた。水色の髪の毛の影を見た。ルウの耳の奥で音が消えた。
 ――水色の記憶、が、

「……五十嵐……ルウ、さま?」

 ぱちんと何かが醒めた音をきいて、ルウはぐっと息を飲み込んだ。
 少年は、不思議そうに首を傾げた。黒い猫っ毛がふわりと揺れた。少しだけ三白眼の気がある大きな黒瞳でじっとルウを見つめた。
 二人の間でしばし時間が声をひそめた。ルウが腕の中の本を滑り落とした時、少年の黒い瞳がわっと驚き、
「わ、わわっ、申し訳ございません! あやしい者じゃないんです、小生はただの行商人の端くれでして……!! こちらで出納をなさってると聞いて、でもあんまりお屋敷が広いもんですから、情けない話が小生、迷ってしまって……!!」
 両腕を振り回して弁明する少年は、勢いあまって尻餅をついてひっくり返った。緑の芝生が視界を覆い、少年はさらに焦燥してもんどりを打ってから身体を地面から引き剥がした。顔についた泥を擦り落としながら、粗相を謝罪するため上半身を振り上げ下ろそうとして、ぎょっと動きを止めた。
 眼前に現れた少女が泣いていた。声も上げず、顔をゆがませることもなく、ただ呆然と、こぼしてしまったように涙を流していた。大粒の涙は、春晴れの空の色を映して光っていた。
 少年がおそるおそる「……ルウさま?」と声をかけると、ルウは我に返ったように涙をぬぐい、首をすくめて背を向ける。何度も何度も手の甲や腕を頬にこすりつける。
「……えっと、ルウさま?」
「ごめっ、ごめんなさい……っ! 気に、……気にしないで、……くださいっ……! ただの、発作みたいな……もの、だから……。行ってください……気にしないで……」
 ルウは細い肩を震わせながら、止まらない涙をぬぐい続けた。自分でも意味がわからなかった。ただ涙をぬぐうしかなかった。何も考えられなかった。
 少年は戸惑ったようにしばし黙っていた。ルウは彼が黙って去ることを期待し、待っていたのだが、少年は去る気配がない。やがて少年はルウの方へゆっくりと、おずおずと歩み寄ってきた。それから、思いがけず、風から庇うようにルウのそばに立つ。
 何事だろうと、ルウは涙で濡れた顔をゆっくり少年の方へ向けた。
 背は少しの差で、少年の方が高かった。不思議そうな目を向けたルウに向けて、少年は屈託なく、ただ無邪気に、くしゃっと笑顔をつくった。
「了解しました! 小生は今から風です!」
 ――……このときの心を、何に喩えよう。
 ルウは何かが身体の奥から吹き上げるのを感じた。臓腑が冷えた。ただ鼻と目と喉が熱かった。
「ただの風です。だから、気にしないで、ゆっくり、ゆっくり、落ち着いて……」

 
 






いつものことだけど飽きたところで終わる(最悪
うん……終えられない物語は始まらないのと一緒だって、紅玉先生もいってたのにね……
この有様だもんね……飽きるとかね……小説かくのが好きってどの口がいうんだみたいな

どうでもいいけど、このレギナ似の商人、名前は「遙海」とかいてハルカです。


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プロフィール

林

Author:林
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こちらは林鉄のぐだぐだな日記です。
主にネタメモ、突然ネタメモ

オタクなこととかやおいなこととかきもちわるいこととか普通に言います
やな人は帰ってください

●文芸部特別企画
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流離人外伝

第二弾(完走!09'12)
夢十夜

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